カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林

カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林：ヨーロッパの自然遺産

ヨーロッパ18か国にまたがる広大なブナ林は、ユネスコの世界自然遺産に登録されています。単に「ブナ林」と称されていますが、その価値は日本のブナ林とは異なり、ヨーロッパブナの生態系を理解する上で極めて重要な役割を担っています。

氷河期からの歴史と進化

このブナ林は、最終氷期後のヨーロッパにおけるブナの生息域拡大を象徴する存在です。氷河期を生き延びたブナは、徐々に北と西へと分布を広げ、現在の広大なブナ林を形成しました。この過程は、陸域生態系の変遷とブナの遺伝的適応を鮮やかに示しており、北半球におけるブナ属の進化の歴史を解き明かす重要な手がかりとなります。

登録範囲と多様な生態系

世界遺産に登録されているのは、18か国94箇所の自然保護区です。ウクライナ、イタリア、ルーマニアなどに多くの保護区が存在し、それぞれ固有の自然環境を誇ります。

具体的には、ウクライナではカルパティア生物圏保護区や東カルパティア生物圏保護区に含まれる国立公園などが登録対象となっています。スロバキアでは、ポロニニ国立公園とその周辺の保護区が、ポーランドではビェシュチャディ国立公園が含まれています。ルーマニアでは、北部と南部カルパチア山脈の複数の国立公園が、ブルガリアでは中央バルカン国立公園が登録されています。

さらに、アルバニア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、スロベニアなど、バルカン半島やディナル・アルプス山脈沿いの地域にも登録地があります。イタリアではアブルッツォ・ラツィオおよびモリーゼ国立公園など複数の国立公園や自然保護区が登録対象です。オーストリアやスイスのアルプス山脈やジュラ山脈の森林、チェコやドイツの国立公園なども含まれています。ベルギー、フランス、スペインでは、それぞれ固有のブナ林が世界遺産に登録されています。

豊かな動植物相

これらのブナ林には、驚くほど多様な動植物が生息しています。確認されているだけでも481種の菌類、400種以上の地衣類とコケ類、1100種以上の維管束植物が存在します。

動物相も非常に豊かで、73種の哺乳類、20種の魚類、10種の両生類、8種の爬虫類、101種の鳥類などが生息しています。大型哺乳類としては、ヒグマ、ヨーロッパバイソン、オオヤマネコ、オオカミなどが見られます。コウモリの種類も豊富で、ロストチア生物圏保護区では多くのコウモリが生息しています。

登録までの経緯と基準

当初はスロバキアの原生林として単独申請されましたが、国際自然保護連合（IUCN）の勧告を踏まえ、ウクライナとの共同申請となり、2007年に世界遺産に登録されました。その後、ドイツ、西ヨーロッパ、南ヨーロッパのブナ林が段階的に追加登録され、現在の広大な範囲となっています。

世界遺産登録基準では、「陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本」という基準(9)を満たしていることが評価されました。

結論

カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林は、ヨーロッパの自然遺産として、その生物多様性と生態学的価値が世界的に認められています。この広大なブナ林は、単なる森林地帯ではなく、ヨーロッパの自然史を理解する上で不可欠な存在であり、未来世代への貴重な遺産として保護され続けていく必要があるでしょう。

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