カルボキシソーム

カルボキシソーム

カルボキシソームは、シアノバクテリアおよび特定の化学合成独立栄養細菌の細胞質に存在する、タンパク質で構成される微細なコンパートメントです。この構造体の内部には、光合成や化学合成における主要な炭酸固定酵素であるリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ（通称ルビスコ）が高密度に集積しています。カルボキシソームは、電子顕微鏡下で観察される特徴的な多面体形状をしており、その表面は特殊なタンパク質からなる堅固な殻によって覆われています。

この構造体の根幹的な機能は、細胞質内に蓄積された重炭酸イオン（HCO₃⁻）を、ルビスコが利用できる二酸化炭素（CO₂）へと変換し、効率的に供給することです。これにより、ルビスコの触媒反応を最適化し、炭酸固定の効率を高める重要な役割を担っています。

歴史

カルボキシソームの存在が初めて確認されたのは1956年です。シアノバクテリアの一種である Phormidium uncinatum の細胞内部に、電子顕微鏡を用いた観察から多面体状の構造体として発見されました。当初はその正体が不明でしたが、その後の研究が進展し、1973年には化学合成独立栄養細菌 Halothiobacillus neapolitanus から単離されました。この際、内部に多量のルビスコが含まれていることが明らかになり、「カルボキシソーム」と命名されました。

構造

カルボキシソームは、典型的には直径80ナノメートルから140ナノメートル程度の多面体構造を呈しています。その構造は、内部に充填されたルビスコと、それを包み込む厚さ約3ナノメートルから4ナノメートルのタンパク質製の殻によって構成されています。この殻は、特定の種類の殻タンパク質が組み合わさって形成されています。また、カルボキシソームの内部には、重炭酸イオンを二酸化炭素に変換する酵素である炭酸脱水酵素（カルボニックアンヒドラーゼとも呼ばれる）も含まれています。ただし、この酵素がカルボキシソーム内のどの位置に局在しているかは、完全には解明されていません。

生理的役割

シアノバクテリアを含む多くの微生物は、細胞外の低濃度な二酸化炭素環境下でも効率的に炭酸固定を行うための「炭酸濃縮機構（CCM）」を備えています。この機構において、カルボキシソームは中心的な役割を果たします。光が当たる環境下では、シアノバクテリアは細胞膜を介して細胞質内に重炭酸イオンを積極的に輸送・蓄積し、高濃度状態を作り出します。しかし、ルビスコが基質として認識するのは二酸化炭素であり、重炭酸イオンを直接固定することはできません。

ここでカルボキシソームが機能します。カルボキシソーム内部に存在する炭酸脱水酵素が、細胞質から取り込まれた高濃度の重炭酸イオンを局所的に二酸化炭素へと変換します。生成された二酸化炭素は、同じくカルボキシソーム内に高密度に存在するルビスコによって効率的に捕捉・利用され、炭酸固定反応が進行します。このように、カルボキシソームは、細胞質に濃縮可能な重炭酸イオンを、ルビスコの基質である二酸化炭素に効率良く変換し供給する「反応カプセル」として働くことで、細胞が低CO₂条件下でも生存・増殖することを可能にしています。カルボキシソームの形成や機能に欠陥が生じる変異体は、特に低濃度の二酸化炭素環境下での光合成や増殖能力が著しく低下することが知られています。

分類

カルボキシソームは、その構成成分や関連遺伝子の特徴に基づいて、主に2つのタイプに分類されます。一つはα-カルボキシソームで、これは一部の化学合成独立栄養細菌や、シアノバクテリアの中でもProchlorococcusなどのα-シアノバクテリアに分布しています。もう一つはβ-カルボキシソームで、こちらはSynechocystisなどのβ-シアノバクテリアに主に存在します。α-カルボキシソームをコードする遺伝子はゲノム上で比較的まとまってクラスターを形成しているのに対し、β-カルボキシソームの関連遺伝子は複数のクラスターに分散している傾向があります。この分類は、カルボキシソーム内部に含まれるルビスコのタイプとも関連しており、α-カルボキシソームはForm IAのルビスコを、β-カルボキシソームはForm IBのルビスコを持つことが一般的です。

関連する構造体

藻類の一部には、ルビスコを集積させる「ピレノイド」と呼ばれる構造体が見られます。ピレノイドはカルボキシソームと機能的に類似した器官であると考えられていますが、その表面にカルボキシソームのような明確なタンパク質製の殻が存在するかどうかは、まだ完全には解明されていません。

また、サルモネラ菌や大腸菌といった特定の細菌では、嫌気的な条件下でエタノールアミンやプロパンジオールといった特定の化合物を栄養源として利用する際に、細胞質内にカルボキシソームと形態的に類似した構造体が形成されることが報告されています。これらの構造体の正確な組成や機能はまだ十分に理解されていませんが、エタノールアミンやプロパンジオールの利用に関わる遺伝子オペロンの中に、カルボキシソームの殻タンパク質と配列上の相同性を示す遺伝子が存在することから、関連する構造である可能性が示唆されています。ただし、これらの細菌はルビスコを持たず、これらの類似構造体が炭酸固定に直接関与しているわけではありません。その詳しい機能については、今後の研究が待たれます。

文献

（文献情報は省略されています）

もう一度検索