カルロス4世の肖像 (ゴヤ)

カルロス4世の肖像

『カルロス4世の肖像』は、スペインの著名な画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1789年に描かれた油彩画で、当時のスペイン王国の面影を映し出しています。この作品は、スペイン国王カルロス4世の即位直後を捉えたもので、彼の内面と外面を同時に表現した名品です。主にプラド美術館に所蔵されていますが、他にも王立歴史アカデミーやアルタディス財団、バルセロナのヴィクトル・バラゲール美術館などでさまざまなヴァリアントが展示されています。

人物背景

カルロス4世は1748年に生まれ、ナポリの国王カルロス3世とマリア・アマリア・フォン・ザクセンの間に生まれました。彼は1765年に従妹のマリア・ルイサ・デ・パルマと結婚し、1788年末にスペイン王として即位しました。しかし、彼の治世は混乱に満ち、政治的な決定を宰相のマヌエル・デ・ゴドイに委ねることが多かったため、国の状況は不安定でした。特に1807年、ナポレオンとの密約でフランス軍がイベリア半島に侵入する契約を結んだことにより、アランフェスの暴動が起き、1808年には息子フェルナンド7世によって退位を余儀なくされました。カルロス4世はその後一時的に復位するも、ナポレオンの介入で幽閉され、1819年にナポリで亡くなりました。

作品の特長

ゴヤが描いたこの絵画は、カルロス4世の公的な姿勢を見事に表現しています。作品の中で、彼は華やかな赤い上着を着ており、銀糸の刺繍が施されています。胸には金羊毛勲章とカルロス3世勲章を光らせ、赤いサッシュがその装飾を引き立てています。暗い背景に緑色のカーテンが映え、画面の右端にはテーブルとその上に置かれた王冠や赤いマントが配置されています。このような配慮により、観る者は王室の象徴としての彼の重要性を感じ取ることができます。

ゴヤは穏やかでありながらもメランコリックな表情を描くことで、カルロス4世の性格を巧みに表現しました。彼は生まれつき善良な性格ではありましたが、気弱な一面も持ち合わせており、この作品にはその内面的な葛藤が反映されています。従来の宮廷肖像画に見られる荘厳さと堅苦しさがある一方で、洗練された技法が際立ち、ゴヤの熟練したスタイルが色濃く表れています。

来歴とヴァリアント

この作品は1911年に王室の命令によりプラド美術館に収蔵されることになりました。また、『カルロス4世の肖像』には複数のヴァリアントも存在しています。これらは王の即位に合わせて異なる公的機関からの依頼に応じて制作されたものです。特に、王立歴史アカデミーやアルタディス財団に所蔵されているヴァリアントは、プラド美術館のバージョンと対をなす形で制作され、制作時期も明確に特定されています。これらのバージョンでは、描かれている王の姿勢や装飾に違いがあり、それぞれに歴史的価値があります。

以上のように、フランシスコ・デ・ゴヤの『カルロス4世の肖像』は、個人の内面と国家の歴史を深く掘り下げた傑作であり、今日でも多くの人々に愛されています。

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