マヌエル・デ・ゴドイ

マヌエル・ゴドイ：スペイン首相と波乱の生涯

マヌエル・デ・ゴドイ・イ・アルバレス・デ・ファリア（1767-1851）は、18世紀後半から19世紀前半にかけてスペインで絶大な権力を握った人物です。平民出身ながら、国王カルロス4世と王妃マリア・ルイサの信頼を得て首相に上り詰めますが、その地位は長くは続かず、最後は亡命生活を送ることになります。本稿では、ゴドイの華麗なる昇進から悲劇的な没落まで、その生涯を詳細にたどります。

華麗なる昇進：王室への接近と権力掌握

ゴドイは、スペイン南部のバダホス近郊のカストゥエラに生まれました。17歳でマドリードに移り、近衛部隊に入隊。その後、王位継承者（後のカルロス4世）と王妃マリア・ルイサに気に入られ、めきめきと出世していきます。1788年には王宮に職を得て、その後わずか数年で、サンティアゴ勲位、大佐、中将など、次々と昇進を重ねました。

ゴドイの急速な昇進は、王室、特に王妃マリア・ルイサへの影響力の拡大を反映しています。1791年には、当時首相であったフロリダブランカ伯爵から、王妃との不倫を告発されるという事件もありましたが、フロリダブランカが失脚すると、ゴドイは1792年に首相の座に就きます。国王カルロス4世は政治に意欲がなく、ゴドイは王妃の強力な支持を得て、実質的なスペインの支配者となりました。

首相としてのゴドイ：外交政策と内政

首相となったゴドイは、フランス革命後のヨーロッパ情勢の中で、中立政策を維持しようとしました。しかし、フランスとの戦争に巻き込まれ、1795年のバーゼルの和約では、スペイン領土の一部をフランスに割譲せざるを得ませんでした。この和約によってゴドイは激しい批判にさらされましたが、「平和公（Príncipe de la Paz）」の称号を与えられ、その地位は揺るぎませんでした。

ゴドイは、イギリスやフランスとの複雑な外交交渉を行い、スペインの利益を追求しようとしました。また、私生活においては愛人ペピータ・トゥドーとの関係を公然と続け、彼女との間に子供ももうけました。1797年には、王室の策略によって一旦首相の座を降りるものの、1801年には再び首相に返り咲いています。

凋落への道：ナポレオンとの関係と失脚

ゴドイの政権は、ナポレオンの台頭によって次第に不安定なものになっていきます。ナポレオンの侵攻に対抗するための外交交渉を迫られ、1807年にはナポレオンとフォンテーヌブロー条約を締結しました。しかし、この条約はスペイン国民の反感を買い、ゴドイの立場をさらに危うくします。

1808年、フランス軍がスペインに侵攻し、アランフエス暴動が起こると、ゴドイは失脚し、投獄されました。カルロス4世とその家族は、フランスに亡命し、ゴドイもまた長きに渡る亡命生活を余儀なくされることになります。

亡命生活と晩年

ゴドイは、フランス、イタリア各地を転々とする亡命生活を送りました。スペイン王フェルナンド7世は、ゴドイの帰国を許さず、その財産も没収しました。亡命生活の中で、ゴドイは自身の回顧録を執筆し、出版しました。晩年にはペピータと結婚し、1851年にパリで亡くなりました。

まとめ

マヌエル・ゴドイの生涯は、平民から首相に上り詰めた華々しい成功と、権力闘争や戦争によって破滅へと突き進む悲劇的な物語です。ゴドイの政治的判断や外交政策は、後世においても様々な議論を呼び起こし続けています。彼の生涯は、18世紀末から19世紀初頭にかけてのヨーロッパの激動の時代を象徴するものであり、歴史研究において重要な人物となっています。

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