カルロ・ゴッツィ

カルロ・ゴッツィ

カルロ・ゴッツィ（Carlo Gozzi、1720年12月23日 - 1806年4月4日）は、18世紀後半のイタリア、水の都ヴェネツィアで活動した劇作家です。没落貴族の出身で、伝統的なイタリア演劇、特にコンメディア・デッラルテの様式を深く愛し、これを擁護したことで知られています。

彼の演劇における最大の功績は、御伽噺や東洋の伝説に取材した独自の劇ジャンル、いわゆる「寓話劇」（Fiabe teatrali）を創出したことにあります。これらの作品は、当時の演劇界において主流となりつつあった写実的な風俗劇とは一線を画し、幻想的で非現実的な世界観、魔法や怪物の登場、そしてコンメディア・デッラルテの定型キャラクター（仮面役）の巧みな活用を特徴としていました。

ゴッツィが生きた時代は、啓蒙思想の影響の下、演劇もまた市民階級の現実的な生活や社会風俗を描く方向へと変化していました。この潮流を主導していたのが、同時代のヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴルドーニです。ゴルドーニは、コンメディア・デッラルテの即興性に代わり、完全に書き起こされた脚本による写実的な喜劇や悲劇を創作し、大きな成功を収めていました。しかし、伝統主義者であったゴッツィは、ゴルドーニらが推進する新しい演劇が、イタリア固有の演劇精神や詩的な想像力を失わせるものだと強く批判し、多くの論争的な文章を発表しました。彼の寓話劇は、こうしたゴルドーニらへの対抗意識から生まれたとも言われており、失われつつあったファンタジーと様式美を演劇に取り戻そうとする試みでした。

彼の寓話劇シリーズは、当時の観客に新鮮な驚きと魅力をもたらしました。代表作としては、ロシアの民話に着想を得た『三つのオレンジへの恋』（L'amore delle tre melarance, 1761年）や、ペルシャの物語に由来する『トゥーランドット』（Turandot, 1762年）などが挙げられます。これらの作品は、現実離れしたプロット、奇抜な登場人物、そして鮮やかなスペクタクルによって、観客の想像力を刺激しました。

ゴッツィの作品は、彼の生きた時代を超えて、後世の芸術家たちに多大な影響を与えました。特に、その劇的な構成と幻想的な物語は、オペラの題材として非常に魅力的であったため、多くの作曲家によって音楽作品化されました。

例えば、『三つのオレンジへの恋』は、20世紀ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフによって、同名のオペラ（1921年初演）として陽気かつ風刺的に音楽化され、広く知られるようになりました。『トゥーランドット』は、ドイツの作曲家カール・マリア・フォン・ウェーバーが付随音楽を作曲したほか、20世紀にはフェルッチョ・ブゾーニがオペラ『トゥーランドット』（1917年初演）を、そしてジャコモ・プッチーニが未完に終わったものの後にフランコ・アルファーノによって補筆完成された傑作オペラ『トゥーランドット』（1926年初演）を生み出しました。特にプッチーニ版は、その壮大な音楽とドラマ性から世界中のオペラハウスで頻繁に上演されています。

また、妖精と人間の禁断の愛を描いた『蛇女』（La donna serpente, 1762年）は、リヒャルト・ヴァーグナーの初期の重要なオペラである『妖精』（Die Feen, 1833年初演）の原作となりました。

このように、カルロ・ゴッツィは、伝統とファンタジーを愛し、時代の潮流に逆らって独自の道を切り拓いた劇作家であり、その独特の世界観は、特にオペラという形で形を変えながら、今日までその生命力を保ち続けているのです。

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