カレーとドーヴァーの間

『カレーとドーヴァーの間』

概要

『カレーとドーヴァーの間』（フランス語: Entre Calais et Douvres、英語: Between Dover and Calais）は、1897年にジョルジュ・メリエスが制作した短編のサイレントコメディ映画です。この作品は、イギリス海峡を渡る船上での乗客たちの様子をユーモラスに描いています。

あらすじ

映画の舞台は、「ロベール＝ウーダン・スター・ライン」という名の船の甲板。乗客たちは、揺れ動く船に対してそれぞれの反応を示しています。例えば、格子模様の服を着た男性は、荒れた海にもかかわらず飲み食いしようともがいています。一方、長い髭を持つ聖職者は、動揺した乗客たちを和ませようと奮闘。そして、船長が甲板の上からこの騒動を見守ります。画面の隅には、船酔いで苦しむ女性が他の乗客に介抱されている様子も見え、混乱が強調されています。

制作背景

この映画は、フランスのセーヌ＝サン＝ドニ県モントルイユにあるメリエスの庭で屋外撮影が行われました。背景には書割を使用せず、特製の舞台装置が活用されています。この舞台は、同年に制作された『ギリシャ海戦』のために用意されたものです。

「ロベール＝ウーダン・スター・ライン」という名称は、メリエスが経営していたロベール＝ウーダン劇場や、彼の映画会社に由来しています。また、商標「M.R.」は、メリエスと彼のパートナーであるルシアン・リューロのイニシャルを表しています。

メリエス自身も作品に出演しており、格子模様の衣装をまとった男性として描かれています。また、彼の娘ジョルジェット・メリエスが人形を持った少女役で登場し、モントルイユ出身の彫刻家ジョゼ・グラピネも登場人物の一人として双眼鏡を持った男性を演じています。映像にはこれらのキャラクターの姿が見られますが、グラピネはあまり鮮明には確認できません。

喜劇の要素

この作品は、メリエスの演出によってうまく混乱した状況が描かれています。映画制作史においても、意図的に計画された喜劇的な場面の初期の例として評価されています。映画史家ジョン・フレイザーは、混沌とした動きの中にも重要な要素が明確に表現されていると評価しています。また、メリエスはこのスタイルをさらに発展させ、後の作品でも同様の手法を取り入れています。

公開と反響

この短編映画は、メリエスの映画会社スター・フィルムからカタログ番号112として発表され、当初は「汽船上での喜劇的な場面」という紹介がなされました。英語版のタイトルは『Between Dover and Calais』が初めての記録として存在しますが、『Between Calais and Dover』の表記も学術的な文献などで数多く見つかります。記録されたタイトルは、作品への広範な関心を示しています。

このように、ジョルジュ・メリエスの『カレーとドーヴァーの間』は、初期の映画における喜劇的な表現と撮影技術の融合を楽しむことができる一作として、映画史に名を刻んでいます。

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