カワサキ・Z1-R/Z1R-II

カワサキZ1-R/Z1R-II：伝説の1000ccバイクとその栄枯盛衰

カワサキ・Z1-RとZ1R-IIは、川崎重工業が製造販売した1000ccクラスのオートバイです。1970年代後半、カワサキは既にZ1（Z900）やZ1000といった名車を生み出していましたが、多様な顧客ニーズに応えるべく、Z1-Rを1978年モデルとして発表しました。

Z1-R：カフェレーサーを体現した異端児

Z1-Rは、従来のカワサキ車とは異なる、直線を基調としたシャープなデザインが特徴でした。まるで日本刀を思わせるそのフォルムは、当時の流行であったカフェレーサーを意識したものと言えるでしょう。メタリックスターダストシルバーという単色のカラーリングも、この独特なスタイルをさらに際立たせていました。

エンジンはZ1000をベースに改良が加えられ、大径キャブレターの採用などにより、出力は90psにまで向上しました。また、カワサキ初となるアルミキャストホイールや、大容量膨張室を持つ4 in 1集合管といった、当時としては最先端の装備も奢られました。メーター類も、スピードメーターとタコメーターに加え、燃料計と電流計、そしてオートキャンセル機構付きの方向指示器といった充実の装備が提供されました。

Z1-Rはメディアの予想を覆し、世界中で1万5000台以上を売り上げるヒット作となりました。しかし、その成功の裏には様々な困難がありました。急激な円高による値上げ、競合他社の台頭、そして何よりも18インチ化による前輪リコール問題が深刻な影を落としました。ハンドリングの欠陥も指摘されており、これらのマイナス要因にもかかわらず、多くのライダーを魅了したのです。翌年には、各社が続々と1リッタークラスの新型車を投入しましたが、多くのメディアのテスト記事でZ1-Rが比較対象として取り上げられるほど、その存在感は圧倒的でした。フランス、ドイツ、アメリカなどでは、現地仕様の派生モデルも展開されました。

Z1R-II：販売低迷に見舞われた後継機

Z1-Rは北米メディアから、小さな燃料タンク(13リットル)、進化の乏しいエンジン、そして乗り心地の悪いサスペンションと酷評されました。さらに、集合管による1本出しマフラーも、左右対称を好む北米市場には受け入れられなかったようです。

これらの問題点を改善すべく、1979年モデルとして登場したのがZ1R-IIです。Z1R-IIでは、フレームとエンジンをZ1000MKIIのものに変更。フロントホイールを19インチ化し、フロントフォークステムのオフセット量を調整することで、ハンドリングの改善を図りました。燃料タンク容量の拡大、4 in 2マフラーへの変更なども行われ、出力もわずかに向上しています。カラーリングは黒と赤の2色が設定され、よりスポーティーな印象となりました。

しかし、Z1R-IIは販売面で苦戦を強いられました。同年発売のZ1000MKIIは、Z1R-IIとほぼ同等の性能をより低い価格で提供していたため、購買層の多くはZ1000MKIIへ流れたと見られます。さらに、ツーリング向けのZ1300やZ1000ST、そして燃料噴射システムを搭載したZ1000Hといったライバル車の登場も、Z1R-IIの存在意義を薄めてしまいました。欧州市場では、Z1-Rのリコール問題の影響もあり、販売は振るいませんでした。結果、2年間の販売台数はわずか5000台に留まりました。

エンブレム表示とサイドカバーエンブレム

興味深いのは、Z1-RとZ1R-IIのエンブレムの違いです。Z1-Rは「Z1000」の後に「-R」と表示されるのに対し、Z1R-IIでは「Z1000」の表示はなく、「Z1R-II」と表記されています。また、Z1R-IIのサイドカバーには「Z1R-II」と「Z1-R」の2種類のエンブレムが存在します。これは、ヨーロッパ市場でZ1-Rとの差別化を図る一方、北米市場ではZ1-Rの後継モデルとしての印象を与えるためのカワサキの戦略だったと考えられます。

衰えぬ人気

Z1-RとZ1R-IIは、販売終了から数十年を経た現在でも根強い人気を誇り、高値で取引されています。多くの車両が海外から逆輸入され、コレクターアイテムとして珍重されているのです。これらのモデルは、カワサキの歴史、そして日本のオートバイ史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。1981年モデルのZ1000(J)の登場でZ1シリーズの系譜は幕を閉じましたが、Z1-RとZ1R-IIは、伝説として語り継がれることでしょう。

所有する著名人

俳優の江口洋介さんがZ1-Rを所有されていることで知られています。

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