カワラノギク

カワラノギク（Aster kantoensis Kitam.）

カワラノギクは、日本固有の植物であり、キク科に分類される二年草（ただし、生育環境によっては三年以上生存することもある可変性二年草）です。この植物が自生するのは、関東地方を中心に、相模川、多摩川、鬼怒川といった特定の河川水系に限定された河原のみという、非常に限られた環境です。

形態

カワラノギクの茎は地面から束になって生え、草丈は50センチメートルほどになります。葉は細長い線のような形で、長さは6〜7センチメートル程度ですが、茎の上部につくものほど小さくなる傾向があります。

花期は秋の10月から11月にかけてです。花の頭部分（頭花）は直径が3〜4センチメートルで、枝分かれした茎の先にいくつか集まってつきます。花の縁にある、花びらのように見える舌状花は白色から薄紫色をしており、中心部にある管のような形をした筒状花は鮮やかな黄色です。

花の基部を包む総苞は7〜10ミリメートルで、これを構成する総苞片は2列に並んでいます。種子には、風に乗って散布されるための冠毛があり、その長さは約6ミリメートルです。

生育環境と生態

カワラノギクは、河川の中流域にある、洪水時に一時的に冠水するような場所を好んで生育します。特に、石や砂が混じり合った砂礫地（砂や小石が堆積した土地）が主な生育場所です。このような場所は「氾濫原」と呼ばれ、常に水が流れたり堆積物が移動したりするため、多くの植物にとっては厳しい環境ですが、競争相手が少ないためカワラノギクの生育に適しています。

しかし、近年、河川改修やダム建設といった水利開発が進んだことにより、カワラノギクが好むこのような特殊な河川環境が失われつつあります。これが、カワラノギクが絶滅の危機に瀕している主要な原因の一つです。

また、氾濫原という性質上、大雨による洪水で生育地ごと流されてしまうリスクも抱えています。実際に、2019年の台風19号では、多摩川の中流域にあったカワラノギクの主要な自生地が壊滅的な被害を受けました。幸いなことに、流されずに残った数少ない株から自然に種子が飛散したり、研究者やボランティアによる種子の保存や播種（種まき）といった地道な保全活動が行われたりした結果、現在では小規模ながらも群落が再生し始めています。

分布

カワラノギクの分布域は非常に限られています。主に日本の関東地方に自生しますが、静岡県の東部や長野県の一部でも確認されています。

具体的な自生地は、前述のように相模川、多摩川、鬼怒川などの特定の河川の、砂礫質の河原に限られています。

保全状況

生育環境の減少や自然災害の影響により、カワラノギクは現在、絶滅の危機に直面しています。国や地方自治体によって、その危険性が評価されています。

環境省：絶滅危惧II類（VU：絶滅の危険が増大している種）に指定されています。
東京都：絶滅（EX）と評価されており、都内ではすでに野生絶滅したと見なされています。
栃木県：絶滅危惧IIB類に指定されています。
神奈川県、長野県：最も危険性の高い絶滅危惧IA類(CR：ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)と評価されています。
* 静岡県：絶滅危惧IB類(EN：近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に指定されています。

このように、地域によってはすでに野生での存続が極めて困難、あるいは絶滅したと判断されており、その保全が喫緊の課題となっています。このため、各地で種子バンクによる保存や、生育地の回復に向けた活動が続けられています。

カワラノギクは、河川の特殊な環境に適応して生きる植物であり、その存在自体が健全な河川生態系を示す指標の一つとも言えます。その保全は、特定の植物種を守るだけでなく、河川環境全体の維持にも繋がる重要な取り組みです。

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