カントリー・ダンス

カントリー・ダンス（英語: country dance）は、17世紀から18世紀にかけてイングランドで盛んに踊られた民俗舞踊の一種です。その起源については様々な説がありますが、少なくとも17世紀初頭には、現在知られるカントリー・ダンスの原型となる踊りが既にイングランド各地で親しまれていたと考えられています。

この舞踊の名称は、イングランドの地方に点在する領主の館、すなわちカントリー・ハウスで踊られていたことに由来すると伝えられています。貴族やジェントリー（郷紳）といった上流階級の人々だけでなく、広く庶民の間でも踊られていたと考えられており、当時のイングランド社会における重要な社交の場を提供していました。

カントリー・ダンスにはいくつかの舞踊形式があります。最も一般的なものの一つは「ロングウェイ」と呼ばれる形式で、男女が向かい合って長い2列を作り、ペアごとに列の中央を進みながら他のペアと交代で踊ります。このロングウェイでは、伝統的に参加者の身分の高い者から順に列の先頭に並ぶ慣習がありました。これに対し、「ラウンド」と呼ばれる円形の形式で踊られる場合もあり、参加者全員が輪になってステップを踏みます。

カントリー・ダンスに関する歴史的な文献として、特に重要なのが1650年に刊行されたジョン・プレイフォード著の『The English Dancing Master』です。この著作には、当時のカントリー・ダンスのステップやメロディが数多く収録されており、後世にこの舞踊が伝えられる上で invaluable な資料となっています。この本は大変な人気を博し、ジョン・プレイフォード自身が第7版までを出版した後、息子のヘンリーがその事業を引き継ぎ、1728年の第18版まで版を重ねました。この著作を通じて、カントリー・ダンスはイングランドだけでなく、ヨーロッパ大陸にも広まるきっかけとなります。

17世紀末には、カントリー・ダンスはフランス宮廷にも紹介され、洗練された宮廷舞踊の要素を取り入れながら「コントルダンス（contredanse）」として発展し、その後大陸ヨーロッパ各地で広く親しまれるようになりました。このように、カントリー・ダンスは後のヨーロッパにおけるペアダンスや集団ダンスの基礎となる舞踊形式に影響を与えたと言えます。

その後、カントリー・ダンスの人気は一時的に落ち着きますが、20世紀後半に入り、特に1980年に公開されたアメリカ映画『アーバン・カウボーイ』のヒットが契機となり、カントリー・ダンスは再び国際的に注目を集めることとなります。

現代では、集団で同じステップを繰り返し踊る「ライン・ダンス」のスタイルで親しまれることが多く、カントリー・ミュージックに合わせて踊られることが一般的です。ドワイト・ヨーカムによるクイーンのカヴァー「Crazy Little Thing Called Love」や、ビリー・レイ・サイラスの「エイキー・ブレイキー・ハート」、シャナイア・トゥエインの「エニィ・マン・オブ・マイン」といった楽曲が、このスタイルの代表的な人気曲として挙げられます。また、カウボーイ・トロイのように、ミュージックビデオの中で具体的なステップを紹介するなど、アーティスト自身がカントリー・ダンス、特にライン・ダンスの普及に貢献している例も見られます。

このように、カントリー・ダンスはイングランドの伝統的な民俗舞踊として生まれ、時代とともに形を変えながら、現代においてもダンスや音楽の文化の中でその存在感を示し続けています。

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