カントリー・ドリーマー

ウイングスの楽曲「カントリー・ドリーマー」（英語: Country Dreamer）は、1973年にリリースされたシングル「愛しのヘレン」のカップリングとして発表されました。この曲は、ポール・マッカートニーを中心としたウイングスによって演奏されています。

楽曲の制作背景には、アルバム『レッド・ローズ・スピードウェイ』の計画変更が関係しています。当初、『レッド・ローズ・スピードウェイ』は2枚組の構成が検討されており、「カントリー・ドリーマー」もその中に収録される予定でした。しかし、レコード会社からの難色や様々な事情により、アルバムは最終的に1枚組でのリリースとなり、この曲はアルバムから外されてしまいました。その結果、「愛しのヘレン」というシングル曲のB面として世に出ることになったのです。録音自体は『レッド・ローズ・スピードウェイ』のためのセッションの中で行われましたが、楽曲としての原型はそれよりも以前、およそ1970年頃には既にほぼ完成していたとされています。

「カントリー・ドリーマー」は、そのタイトルが示すように、カントリー音楽のテイストを色濃く反映した楽曲です。ゆったりとしたテンポとアコースティック楽器を中心としたサウンドが特徴で、聴く者に穏やかな印象を与えます。歌詞は、都会の喧騒から離れた田舎での生活、自然の中で過ごす時間の喜びや、そこに流れる平和で満ち足りた日々を描いています。リードボーカルを務めるポール・マッカートニーは、この曲で「オクターブ唱法」と呼ばれる独特の歌い方を披露しており、一つのメロディーを異なるオクターブで重ねることで、楽曲に深みと広がりを加えています。スライドギターの音色も、曲全体のカントリーフィーリングを高める要素となっています。

この楽曲には、リリース形態や音楽性とは別に、特筆すべき興味深いエピソードがあります。それは、「カントリー・ドリーマー」がウイングス自身の発表よりも前に、日本の音楽グループであるブラウン・ライスのために書き下ろされた楽曲であるという事実です。ブラウン・ライスは当時、アメリカでの活動を目指しており、ポール・マッカートニーは彼らのアメリカデビューシングルとしてこの曲を提供しました。ブラウン・ライスのシングルは、ウイングス盤よりも先行して、1973年9月にアメリカでリリースされました。ポールが日本のバンドに楽曲を提供したことは、当時の音楽シーンにおいて大きな話題となりました。ブラウン・ライスの日本盤シングルは、同年12月1日に発売され、A面には阿久悠氏が日本語詞を手がけ、「さすらう青春」という副題が付けられたバージョンが、B面にはポールによるオリジナルの英語詞バージョンが収録されました。このように、「カントリー・ドリーマー」は、ウイングスの隠れた名曲であると同時に、日英間の音楽交流史におけるユニークな一点をなす楽曲とも言えるでしょう。

この楽曲の録音には、以下のメンバーが参加しています。

ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、アコースティック・ギター、ピアノ、パーカッション
リンダ・マッカートニー - バッキング・ボーカル
デニー・レイン - ベースギター、バッキング・ボーカル
ヘンリー・マカロック - スライドギター
* デニー・シーウェル - ドラムス

本記述は、"Paul McCartney Recording Sessions (1969~2013)"等の資料を参照しています。

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