カース・マルツゥ

カース・マルツゥ：生きた蛆が入った独自のチーズ

カース・マルツゥ（Casu Marzu）は、イタリアのサルデーニャ地方で作られる、特異なチーズの一種で、サルデーニャ語では「腐ったチーズ」を意味します。一般に「うじ虫チーズ」や「虫入りチーズ」として知られるこの製品は、見た目や性質からして一般的なチーズとは一線を画します。カース・マルツゥは、元々ペコリーノ・サルドというチーズを基にしており、特に熟成過程がユニークです。

概要

カース・マルツゥの製造には、特定のチーズバエの幼虫、すなわちPiophila caseiが関与します。この幼虫は、チーズの内部で発生し、その食べた部分を体外消化するプロセスを通じて、通常の発酵をさらに進めます。この結果、一般の人には腐敗したように見える段階に達します。製造過程では、意図的に成虫が卵を産むように仕向け、その幼虫が成長する環境を整えます。

このチーズは非常に柔らかく、サルデーニャ語で「涙」を意味する「ラグリマ」（lagrima）と呼ばれる液体が漏れ出します。幼虫自体はおおよそ8ミリメートルの長さで、半透明の白色をしています。食べる際には、幼虫が跳ねることがあるため、目を守ることが奨励されています。加えて、幼虫を取り除く人もいれば、そのまま食べる人もいます。特に日本では、幼虫が含まれるためにゲテモノ料理として認識されています。

外見と味

著名なグルメライターやジャーナリストもカース・マルツゥについて言及しています。例えば、2000年の『ウォールストリート・ジャーナル』や2002年の『ボナペティ』では、特有の風味や食文化との結びつきが語られ、サルデーニャのパンと赤ワインと一緒に楽しむことが一般的であると紹介されています。

健康リスク

カース・マルツゥには、幼虫が胃腸に残り、健康に影響を及ぼす可能性があるとの指摘があります。一部の食品科学者は、これにより「蛆蛆症」や「仮性筋症」という状態に陥る可能性があると警告しています。実際に、これに関する症例も報告されています。ただし、2005年には、衛生基準を満たした生産方法が確立され、合法的な販売が再び可能となりました。

法的規制と市場

カース・マルツゥは、その健康リスクによりEUの食品規制の下で販売が禁止されています。しかし、サルデーニャでは依然として人気が高く、闇市では高値で取引されることもあります。このチーズを「伝統食品」として評価してもらう試みも行われており、25年以上にわたる伝統的な製法の存在がその背景にあります。サルデーニャ地方政府によっても、製造方法が公式に文書化されています。

他の地域での種類

イタリア国内では、カース・マルツゥと同様に、幼虫を含むゴルフやフルマイなどの他のチーズも存在します。これらのチーズはそれぞれの地域で異なる呼称で知られ、製法も異なる場合があります。例えば、アブルッツォ州のマルチェットや、フリウーリウーディネ州のサルテレッロがその例です。

まとめ

カース・マルツゥは、サルデーニャ地方の独特な食文化を象徴する存在と言えるでしょう。その風味や原材料からくる特異性は、食べる文化や習慣に深く根付いており、単なるチーズ以上の意味を持っています。その一方で、健康リスクや法的規制は、このチーズが持つ複雑な側面を浮き彫りにしています。食べる際は、それらを十分に理解した上で楽しむことが大切です。

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