カード遊び (ジョルジュ・メリエスの映画)

映画『カード遊び』（Une partie de cartes）

『カード遊び』は、フランスの映画監督ジョルジュ・メリエスによって1896年に制作された非常に短い初期映画作品です。約1分という短い上映時間ですが、この作品は映画史において非常に重要な位置を占めています。なぜなら、これがかの「映画の魔術師」と呼ばれるメリエスが初めて手掛けた映画作品だからです。彼が設立した映画製作会社スター・フィルムの初期カタログにおいて、記念すべきカタログ番号1が与えられていました。

制作の背景

ジョルジュ・メリエスが初めてメガホンを取った本作は、彼の家族の協力を得て生み出されました。特に、彼の弟であるガストン・メリエスもこの作品で映画の世界にデビューしています。ガストンは後に兄とは異なる形で、主にドキュメンタリーや劇映画の監督・プロデューサーとして多数の作品を手掛け、映画史に名を残す人物となります。『カード遊び』は、まさにメリエス兄弟の映画人としての出発点であったと言えるでしょう。

また、この映画が制作された1896年という時期は、リュミエール兄弟によってシネマトグラフが発明され、世界中で初期の映画が上映され始めた黎明期でした。当時の映画制作者たちは、互いの作品から着想を得たり、人気の題材を模倣したりすることが一般的でした。『カード遊び』も例外ではなく、同年2月にリュミエール兄弟が発表していた『エカルテ遊び（Partie d'écarté）』という作品から強く影響を受け、その成功を受けて制作された模倣作品という側面を持っています。リュミエール兄弟が日常生活の一コマを記録するスタイルであったのに対し、メリエスは既にこの初期段階から、自身の創造性や演出への関心を示し始めていたと考えることもできます。

失われたと思われた作品の再発見

『カード遊び』は、制作から長い年月を経て、その存在が確認できない「失われた映画」の一つと考えられていました。しかし、映画史の研究者や愛好家たちの努力により、1981年に奇跡的にこの貴重なフィルムが再発見されました。失われたと思われていた初期の映画が発見されることは稀であり、これは映画史の研究にとって非常に大きな出来事でした。再発見されたフィルムはその後、研究や保存の対象となり、限られた機会に上映されるようになりました。そして、2008年にはホームビデオの形でリリースされ、より多くの人々がこの歴史的な作品を視聴できるようになりました。

初期映画史における意義

約1分という極めて短い作品である『カード遊び』は、今日の視点から見れば非常にシンプルに見えるかもしれません。しかし、この映画はジョルジュ・メリエスという類まれなる才能が、初めてカメラという新たなツールに触れ、その可能性を探り始めた記念碑的な一歩なのです。マジシャンであったメリエスは、映画を単なる現実の記録ではなく、幻想や物語を表現するための媒体として捉え、後に特殊効果やセットデザインを駆使した革新的な作品を次々と生み出していきます。その壮大なキャリアの出発点が、まさにこの『カード遊び』という短い作品にあったのです。リュミエール兄弟の「記録」の映画とは異なる、メリエスが追求する「創造」の映画の萌芽を、この最初の作品の中に見出すことができます。短さの中に、初期映画の制作状況、家族経営のプロダクション、そして偉大な映画監督の誕生を物語る重要な歴史的価値が詰まっていると言えるでしょう。

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