エカルテ遊び

『エカルテ遊び』（Partie d'écarté）

概要

『エカルテ遊び』（原題：Partie d'écarté）は、映画の創始者の一人であるルイ・リュミエールが監督した、最初期の短編映画作品です。1896年に公開され、日本語では『カード遊び』や『リュミエール家の庭での親睦会』といった名称でも知られています。わずか数分間という短いながらも、リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフを用いて撮影された初期作品群の中でも特に重要な位置を占める作品です。

あらすじ

物語は、日当たりの良いパティオに座る三人の高齢の男性の姿を捉えるところから始まります。彼らは皆、帽子をかぶり、葉巻を片手にリラックスした様子です。そのうちの二人、一方はテーブルの右手に、もう一方は左手に陣取り、当時流行していたカードゲーム「エカルテ」に興じています。もう一人の男性は、彼らのプレイを静かに見守っています。

ゲームが進行する中、少し若い給仕が現れます。彼は盆にワインの瓶とグラスを載せて運んできます。給仕が興味深そうにゲームの様子を眺める傍らで、カードゲームに没頭していた男性たちは、盆からグラスを取り、それぞれのグラスにワインを注ぎます。この一連の短い場面を通して、当時の上流階級の人々の日常の一コマが切り取られています。

出演者

この作品には、リュミエール兄弟と関わりの深い人物たちが登場しています。カードゲーム「エカルテ」をプレイする二人のうち、テーブルの右手に座っているのは、著名な奇術師であり、シネマトグラフのイギリスにおける公式代理人も務めていたフェリシアン・トルウィーです。左手に座る人物は、リュミエール兄弟の実父であるアントワーヌ・リュミエールです。そして、ワインを運んでくる給仕役は、アントワーヌ・フェローが演じています。身内や関係者が多く出演している点は、初期のリュミエール作品に共通する特徴の一つです。

制作背景

『エカルテ遊び』は、リュミエール兄弟が開発した画期的な装置「シネマトグラフ」を用いて撮影されました。シネマトグラフは、カメラとしてだけでなく、撮影したフィルムを現像し、さらにそれを映写するための機械という、一台三役をこなす多機能な装置でした。

当時のリュミエール作品の多くと同様に、本作も標準的な35ミリフィルムを使用しており、画面の縦横比は1.33:1という、初期サイレント映画で一般的だったアスペクト比で製作されています。撮影は、フランス南部の美しい港町として知られるラ・シオタにある「Villa du Clos des Plages」という邸宅で行われました。この邸宅はリュミエール家ゆかりの場所であり、初期の多くの作品の舞台となっています。

後世への影響と模倣

『エカルテ遊び』は、1896年2月に一般公開されました。この作品は、同時代の他の映画製作者にも影響を与えました。特に有名なのが、後の映画史において重要な役割を果たすことになる奇術師ジョルジュ・メリエスです。メリエスは、本作の公開後間もない1896年中に、これと非常に良く似た題材を用いた自身の最初の映画作品『カード遊び (Une partie de cartes)』を制作しました。メリエス版では、彼自身も出演しており、リュミエール版とは異なるユーモラスな演出が加えられています。この模倣は、リュミエール兄弟の作品が公開直後から注目を集め、新たな芸術形式としての映画の可能性を広げていたことを示唆しています。

まとめ

『エカルテ遊び』は、そのシンプルながらも日常の一コマを捉えた内容、リュミエール家の関係者が出演している点、そして映画史における画期的な機材であるシネマトグラフを用いて撮影されたという事実において、非常に価値の高い作品です。また、他の初期映画作家に影響を与えた点も重要であり、黎明期の映画がどのように発展していったかを知る上で、見過ごすことのできない作品と言えるでしょう。

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