カール・ジラルデ

19世紀に活躍したスイス出身の画家でありイラストレーター、カール・ジラルデは、本名をシャルルといった。1813年、当時フランス領だった現在のスイス、ヌーシャテル州ル・ロックルで生まれた。彼の家系は多くの版画家や画家を輩出しており、自身も著名な版画家であった父シャルル・サミュエル・ジラルデの長男として生まれた。父と同名だったため、混乱を避けるためにカールという名を用いるようになったといわれる。

幼少期、9歳になった1822年に父と共にパリへ移住し、そこで本格的な美術教育を受け始めた。国立の美術学校に通ったかは不明だが、ルイ・エルサンやレオン・コニエといった当時を代表する画家たちの指導のもと、古典的な技法や構図を学んだと考えられる。ジラルデ家は芸術家一家であり、カールの弟であるエドゥアール・アンリ・ジラルデとポール・ジラルデも後に画家として活躍することになる。兄弟は互いに刺激し合いながら、芸術の道を歩んだ。

若い頃からその才能は認められ、1830年代初頭にはヌーシャテルの貴族であり画家でもあったマクシミリアン・ド・ミューロンと知り合い、彼の惜しみない支援を受けるようになった。この支援が、その後のジラルデの芸術活動を大きく後押ししたと言えるだろう。経済的な援助に加え、芸術家としての助言や人脈の提供もあったかもしれない。

1837年にはパリの権威ある芸術展覧会、サロンに風景画を出品し、高い評価を得た。叙情的な風景表現は当時の批評家からも注目され、これを契機に、時のフランス国王ルイ・フィリップの王室から美術作品の模写制作を依頼されるなど、着実に名声を確立していった。王室からの注文をこなしながら、彼は国内外への旅を通じて見聞を広め、制作の糧とした。1838年にはドイツのデュッセルドルフを訪れ、翌1839年にはオーストリアのチロル地方へ、そして1840年にはイタリアへと旅した。これらの旅先で描かれたスケッチや習作は、その後の風景画や風俗画に生かされた。さらに1842年には、支援者であるマクシミリアン・ド・ミューロンの息子アルベールと共に、遥かエジプトへの旅も敢行している。異国の光景や文化は彼の想像力を刺激し、その後の作品に影響を与えたことだろう。

しかし、彼の活動は常に順風満帆だったわけではない。1848年にフランスで二月革命が起こり、君主制が崩壊すると、政情不安からスイスのブリエンツへ一時的に亡命することを余儀なくされた。数年間スイスで過ごした後、1850年には再びパリへと戻り、活動を再開した。

パリ帰還後、ジラルデは特に挿絵の分野で大きな成功を収める。トゥールの出版者アルフレッド・メイムが刊行した書籍に描いた挿絵が大変好評を博した。物語の内容を的確に捉え、生き生きとした人物描写や情景表現が評価されたのだ。これを機に児童向け書籍や宗教書など、様々なジャンルの本の挿絵を数多く手がけるようになった。また、「ル・マガザン・ピトレスク」や「ル・トゥール・デュ・モンド」といった当時人気のあった挿絵入りの雑誌でも定期的に作品を発表し、広く大衆にその名を知られるようになった。彼はパリのモンマルトルに自身のスタジオを構え、精力的に創作活動を続けた。画家としてだけでなく、イラストレーターとしての地位を確立したのである。

晩年、ジラルデの人生は悲劇に見舞われる。1870年から1871年にかけて起こった普仏戦争の最中、プロイセン兵士によって目に傷害を負ってしまったのだ。芸術家にとって生命線ともいえる視覚に受けたこの怪我が原因で、失明するかもしれないという激しい不安に苛まれ、精神的に追い詰められたとされる。そして、その絶望感からか、1871年4月24日、自ら命を絶ったと考えられている。

カール・ジラルデは、風景画や歴史画、肖像画なども手がけたが、特にその繊細で表現力豊かな挿絵は高く評価されている。彼の作品は、19世紀のヨーロッパの風景や風俗、そして物語の世界を今に伝えている。

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