ル・トゥール・デュ・モンド

『ル・トゥール・デュ・モンド』（仏：Le Tour du monde）は、1860年1月にフランスで誕生した、イラストレーションを豊富に掲載した画期的な旅行週刊誌です。この雑誌は、世界各地の探検や旅行の記録を詳細に伝えることを目的としていました。単に週刊誌として発行されるだけでなく、後には年次版の書籍としてまとめられ、通巻で99冊に及ぶ大部のシリーズとなりました。

雑誌の歩み

この雑誌の歴史は、大きく二つの時期に分けられます。最初のシリーズ『Le Tour du monde, nouveau journal des voyages』は、百科全書的な性格を持つグラフィック雑誌『ル・マガザン・ピトレスク』の編集長であったエドゥアール・シャルトンによって創刊されました。この企画は、出版社のルイ・アシェットの強力な支援を得て実現しました。創刊当初、誌面はテキストと緻密な木版画で構成され、まず駅の売店で週刊の小冊子として販売されました。その後、半年ごとにその内容が編集・集約され、年次版の書籍として書店で流通するというユニークな販売形態をとっていました。

1895年には、雑誌は第二期へと移行し、『Le Tour du monde, journal des voyages et des voyageurs』（世界中の旅行と旅行者の日記）とタイトルを改めました。この頃には、図版の技法も進化しており、従来の木版画に加えて、写真版画や色彩豊かな多色石版が導入され、視覚的な表現力はさらに向上しました。

内容と時代背景

『ル・トゥール・デュ・モンド』は、当時の著名な知識人や文化人を主要な読者層として想定していました。誌面には、エリゼ・ルクリュやジョン・パリサー、フランソワ・エドゥアール・レーナルといった著名な学者や探検家たちが、自身の旅や調査の成果を寄稿しました。彼らの生き生きとした報告は、読者を未知の世界へと連れて行きました。

また、この雑誌を視覚的に彩ったのは、100名を超える画家や版画家たちの功績です。ギュスターヴ・ドレやエドゥアール・リウーなどの芸術家たちが手がけた図版は、記事の内容を補完し、読者の想像力を掻き立てました。毎週提供される旅行と探検に関する情報は、当時のフランス社会、特に文化人たちの間で広く読まれ、その世界観や地理的知識に深い影響を与えました。

この雑誌が活動した期間、特に創刊から1914年頃までは、ちょうどヨーロッパ諸国による世界各地の探検が最も活発に行われていた時代と重なります。1860年代初頭のナイル川源流発見から、1911年末の南極点到達に至る約50年間は、西洋人による大規模な世界探検が多くの重要な成果を上げた、まさにその「最後の実り多い時期」でした。『ル・トゥール・デュ・モンド』は、こうした歴史的な探検の最前線からの報告をリアルタイムで伝える、貴重なメディアとしての役割を担ったのです。

誌面の構成と終焉

各号は基本的に16ページ以上で構成されていました。誌面にはふんだんにイラストが用いられ、特に表紙やヘッダ下部のモノクロームのイラストは雑誌の顔とも言える特徴でした。本文中でも、記事内容に応じて図版のためにページが割かれ、読者はテキストと共に豊富な視覚情報から旅の様子を追体験できました。これらの版画は、シャルル・ラウレの工房で丁寧に印刷されていました。

創刊年の1860年には合計52号が発行されましたが、一つの長い紀行文が複数の号に分けて掲載されることも珍しくなかったため、巻数と号数には必ずしも一致が見られません。これは当時の雑誌における一般的な編集手法の一つでした。

雑誌は、第一期シリーズで68巻、第二期シリーズで31巻の年次版書籍を刊行した後、1914年7月をもって雑誌としての刊行を終了しました。そして1930年2月、雑誌出版社である「レクチュール・プール・トゥス」に買収され、その歴史に幕を下ろしました。しかし、全99巻に及ぶ書籍版は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての世界の地理、探検の歴史、そして当時の印刷・図版技術を知る上で、現在でも極めて重要な資料となっています。創刊年に掲載された記事を見ても、トルキスタン、北米ロッキー山脈、中央アフリカ、ビルマ、そして日本・中国への旅など、既に世界中の多様な地域がテーマとして取り上げられており、その探求範囲の広さがうかがえます。チャールズ・ダーウィンによるガラパゴス諸島の記録のような、後世に大きな影響を与える報告も掲載されていました。

『ル・トゥール・デュ・モンド』は、単に旅行記を並べた雑誌ではなく、読者の地理的な視野を広げ、探検へのロマンを掻き立てる文化的な役割を果たしました。著名な探検家たちの報告と、卓越した画家たちの挿絵によって形作られたこの雑誌は、激動の時代の世界への窓であったと言えるでしょう。

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