カール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクール

ヴァイオリン界の巨匠、カール・フレッシュ（Carl Flesch, 1873-1944）の功績を記念して名付けられた国際ヴァイオリン・コンクールは、「カール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクール」という同じ名称を持ちながら、実際には起源も開催地も全く異なる二つの独立した大会が存在します。一つは過去にイギリスの首都ロンドンで開催されていたコンクール、もう一つは現在もハンガリー北西部の都市モションマジャローヴァールで行われているコンクールです。これら二つのコンクールは、その歴史的背景や運営主体においても明確に区別されます。

ロンドンで開催されていたコンクール

ロンドンにおけるカール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクールは、カール・フレッシュが亡くなった翌年の1945年に、ヴァイオリニストであるマックス・ロスタールとエドリック・カンデルによって創設されました。このコンクールはロンドンを舞台に開催され、若手ヴァイオリニストの登竜門として国際的に高い評価を得ていました。優勝者には、名誉あるカール・フレッシュ・メダルが授与されるほか、1990年時点で5,000ポンド相当の賞金、そして著名なロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との共演機会といった特典が与えられました。

このコンクールからは、多くの優れたヴァイオリニストが輩出されました。初期にはレイモンド・コーエン（1945年）、ノルベルト・ブレイニン（1946年）、イゴール・オジム（1951年）、ジャン＝ジャック・カントロフ（1962年）らが名を連ねています。また、日本からも大山平一郎（1968年、ヴィオラ部門での優勝と考えられる）、木野雅之（1984年）が優勝を果たしています。末期には、世界的に著名なマキシム・ヴェンゲーロフ（1990年）やベンヤミン・シュミット（1992年）といった奏者もこのコンクールで栄誉を掴みました。しかし、ロンドン市による資金援助が打ち切られたことを受け、このコンクールは1992年の開催を最後に、事実上その幕を閉じることとなりました。

ハンガリーで開催されているコンクール

これとは別に、カール・フレッシュの生誕地であるハンガリーのモションマジャローヴァールでは、1985年から別のヴァイオリン・コンクールが開催されています。この大会は当初は国内向けのコンクールとしてスタートしましたが、後に「カール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクール」と改称され、現在は国際コンクールとして位置づけられています。このコンクールは、モションマジャローヴァール市とJózsefné Fejes音楽財団が共催しており、現在も数年ごとに開催されています。

初期の入賞者リストを見ると、1980年代後半から1990年代初頭にかけては、ジュラ・シュトュッレール、Erika Tóth、Beatrix Godányiといったハンガリー国内の参加者が上位を占めており、国内大会としての性格が強かったことがうかがえます。しかし、1990年代半ばからは、ルーマニアのMelinda Béres（1993年2位、1995年1位）やウクライナのエドウィン・マートン（1993年3位）など、国外からの入賞者が見られるようになり、次第に国際色を強めていきました。近年の大会では、ドイツのララ・ボシュコウ（2013年1位）、日本の尾池亜美（2013年2位）、長尾春花（2018年1位）、そして韓国のEun Che Kim（2023年1位）など、世界各国から若手奏者が集まる国際大会へと発展しています。

まとめ

このように、「カール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクール」という名称は、歴史的に異なる二つの主要なヴァイオリン・コンクールを指し示します。一つはロンドンで1945年から1992年まで開催された、すでに終了した権威ある大会。もう一つはハンガリーのモションマジャローヴァールで1985年から現在まで続く、国際的な若手奏者のためのコンクールです。両者は名称こそ同じですが、その起源、主催者、開催地、そして歴史は明確に異なっており、全く別のコンクールとして認識する必要があります。

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