ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団（LPO）は、イギリスを代表するオーケストラの一つで、ロンドンを拠点に活動しています。1932年にトーマス・ビーチャムによって設立され、その創立から今日に至るまで、数々の名指揮者と共演し、独自の音楽性を追求してきました。楽団員数は約70名で、その洗練された演奏は世界中の音楽ファンを魅了し続けています。

歴史

創立期

1932年、トーマス・ビーチャムは、BBC交響楽団に対抗するオーケストラを創設しようと、私財を投じてロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を設立しました。同年10月7日には、リヒャルト・シュトラウスの『英雄の生涯』を中心としたプログラムで初コンサートを開催し、設立当初からロンドン有数のオーケストラとしての評価を確立しました。

しかし、第二次世界大戦が勃発すると、ビーチャムは楽団運営を放棄してアメリカへ渡り、楽団は存続の危機に陥りました。この危機的な状況の中、残された楽員たちは自主運営団体として再出発することを決意し、マルコム・サージェントの協力を得て、戦時中の困難な時代を乗り越えました。

第二次世界大戦後

戦後、楽団はエイドリアン・ボールトやジョン・プリッチャードといった優れた指揮者を迎え、その音楽性をさらに発展させました。プリッチャード時代には、グラインドボーン音楽祭への出演を開始し、オペラ演奏の分野でも高い評価を得ました。グラインドボーン音楽祭は、新作と再演を織り交ぜた大規模なオペラシーズンを持つため、ロンドン・フィルは事実上、ロンドンで唯一のコンサート・オペラ兼業団体として重要な役割を果たしました。

ハイティンク時代（1967年 - 1979年）

1967年、ベルナルト・ハイティンクが首席指揮者に就任し、ロンドン・フィルは新たな時代を迎えました。ハイティンクは、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者も務めていたオランダ出身の指揮者で、ロンドン・フィルに初の外国人首席指揮者として迎えられました。この時期、ハイティンクはフィリップス・レーベルに数多くの録音を行い、ベートーヴェン、リスト、メンデルスゾーンなどの交響曲全集や協奏曲集をリリースしました。また、ショスタコーヴィチの交響曲全集はコンセルトヘボウ管弦楽団と分担して録音され、その完成度の高さは世界的に評価されました。ハイティンクの指揮によって、ロンドン・フィルは柔和で上品な表現力を獲得し、国際的な評価をさらに高めました。

ショルティ時代（1979年 - 1983年）

ハイティンクの後任には、ゲオルク・ショルティが就任しました。ショルティは、シカゴ交響楽団の音楽監督も務めるハンガリー出身の指揮者で、そのパワフルな指揮スタイルでロンドン・フィルを牽引しました。ショルティは、デッカ・レーベルにエルガーの交響曲全集やホルストの組曲『惑星』などを録音しました。また、モーツァルトのオペラ作品も録音し、その幅広い音楽性が高く評価されました。ショルティの在任期間は4年間と短かったものの、楽団に大きな影響を与えました。

テンシュテット時代（1983年 - 1987年）

1983年、クラウス・テンシュテットが首席指揮者に就任しました。テンシュテットは、東ドイツ出身の指揮者で、その情熱的な音楽表現で聴衆を魅了しました。テンシュテットは、マーラーの交響曲全集を録音し、その完成度の高さは世界的に高く評価されました。テンシュテットの指揮によって、ロンドン・フィルはマーラーの音楽に新たな解釈を加え、その演奏は比類のない完成度に達しました。

ウェルザー＝メスト時代（1990年 - 1995年）

テンシュテットの辞任後、フランツ・ウェルザー＝メストが首席指揮者に就任しました。ウェルザー＝メストは、若くしてカラヤン国際指揮者コンクールでセミ・ファイナリストとなったオーストリア出身の指揮者で、メンデルスゾーンやストラヴィンスキーの作品を録音しました。しかし、楽員との衝突が原因で、1995年に辞任しました。

マズア時代以降（2000年 - ）

2000年、クルト・マズアが首席指揮者に就任し、楽団の自主制作レーベル「LPO」を立ち上げ、過去の貴重なライブ音源をCD化しました。その後、ウラディーミル・ユロフスキが首席指揮者となり、2021年からはエドワード・ガードナーが首席指揮者を務めています。歴代の首席指揮者は、イギリス、オランダ、ドイツ、オーストリア出身の指揮者で占められており、この国際的な背景が、ロンドン・フィルの独自の上品で重厚なサウンドを生み出しています。

映画音楽・ポピュラー音楽

ロンドン・フィルは、クラシック音楽だけでなく、映画音楽やポピュラー音楽の演奏にも積極的に取り組んでいます。『ロード・オブ・ザ・リング』3部作、『アラビアのロレンス』、『フィラデルフィア』などの映画音楽や、『ドラゴンクエスト』シリーズなどのゲーム音楽のサウンドトラックを担当しました。また、チック・コリア、ナイトウィッシュ、YOSHIKIなどのポピュラー音楽アーティストとも共演し、その幅広い活動は多くのファンを魅了しています。

2011年には、ロンドンオリンピック・パラリンピックのために、205の国と地域の国歌を演奏し、その収録された国歌は選手団の選手村入村式や表彰式で使用されました。

ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団は、創立から90年以上にわたり、常に進化を続け、世界中の音楽ファンに感動を与え続けています。

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