カール・ランクル

カール・ランクル（Karl Rankl）は、激動の20世紀にオーストリアで生まれ、イギリスを拠点に活動した著名な指揮者です。1898年10月1日にウィーン近郊のガーデンという村で、大家族の末っ子として生を受けた彼は、後に音楽の道に進みます。

第一次世界大戦終結後の1918年、若きランクルは音楽の中心地ウィーンで研鑽を積みました。特に、現代音楽の巨匠として知られるアルノルト・シェーンベルクやアントン・ウェーベルンといった重要な作曲家たちに個人的に師事した経験は、彼の音楽観に大きな影響を与えたと考えられます。

師事期間を経て、ランクルはヨーロッパ各地の歌劇場でキャリアをスタートさせます。1924年にはウィーン・フォルクスオーパーで指揮台に立ち、翌1925年には現在のチェコにあたるリベレッツ、1927年にはドイツのケーニヒスベルク（現在のカリーニングラード）で指揮者としての経験を積みました。この時期の重要な転機は、1928年から1931年にかけてベルリンのクロルオーパーで指揮者オットー・クレンペラーのアシスタントを務めたことです。クレンペラーの下で、ランクルは積極的に現代音楽の擁護に取り組み、そのプログラミングと演奏に貢献しました。

クロルオーパー閉鎖後も、ランクルはドイツ国内での活動を続けました。1931年から翌年にかけてヴィースバーデン歌劇場、1932年から1937年まではグラーツ歌劇場でそれぞれ指揮者を務め、オペラ指揮者としての地位を確立していきます。1937年にはチェコスロバキアのプラハ・ドイツ歌劇場の指揮者に就任し、ここでも重要な仕事を手がけました。特に1938年にはエルンスト・クルシェネクのオペラ《カール五世》の初演を成功させています。しかし、ヨーロッパの政治情勢は悪化の一途をたどり、1939年に第二次世界大戦が勃発すると、オーストリア出身であるランクルはプラハを離れ、安全を求めてイギリスへ亡命することになります。

戦後、ランクルはイギリスの音楽界で重要な役割を担うこととなります。1946年には、再開されたロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場の初代音楽監督に迎えられました。この大役は、戦後イギリスのオペラ界の復興を託されたものでした。しかし、1950年に行われたリヒャルト・ワーグナーの大作《ニーベルングの指環》の全曲公演では、アンサンブルの統一性や演出面での評価が分かれ、その運営能力について批判的な見方も生まれました。この一件が影響したのか、ランクルは1951年にコヴェントガーデン音楽監督のポストを辞任します。

コヴェントガーデンを離れた後も、ランクルは指揮者としての活動を続けました。1952年から1957年にかけては、スコットランドを代表するオーケストラ、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団（現在のロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団）の首席指揮者を務め、このオーケストラの発展に貢献しました。さらに、活動の場はオーストラリアにも広がり、1958年から1961年にかけてエリザベス・オペラ・トラストの音楽監督として、オーストラリアにおけるオペラ芸術の振興にも力を尽くしました。

晩年は再び故郷オーストリアに近い場所で過ごしました。1968年9月6日、彼はザルツブルク近郊のザンクト・ギルゲンでその生涯を閉じています。指揮者としての輝かしいキャリアの傍ら、ランクルは作曲家としても活動していました。オペラや交響曲など複数の作品を残しましたが、残念ながらこれらの作品は彼の存命中、あるいは死後も出版されることはありませんでした。

カール・ランクルは、ウィーン楽派の薫陶を受け、ドイツ各地の歌劇場で経験を重ね、そして戦禍を逃れた地イギリスで、戦後オペラ界の礎を築こうとした指揮者でした。その波乱に満ちたキャリアは、20世紀の音楽史と激動の社会情勢を映し出しています。

もう一度検索