オットー・クレンペラー

オットー・クレンペラー：20世紀の音楽界に刻まれた孤高の巨匠

オットー・クレンペラー(1885-1973)は、20世紀を代表するドイツ出身のユダヤ系指揮者であり、作曲家でした。その生涯は、音楽的才能と奔放な個性、そして激動の時代を反映したドラマチックなものでした。

音楽家としてのキャリア

ポーランドのヴロツワフに生まれ、ハンブルクで育ったクレンペラーは、幼少期から音楽教育を受けました。フランクフルトとベルリンの音楽学校で研鑽を積み、作曲、指揮、ピアノを修めた彼は、グスタフ・マーラーからの推薦を受け、プラハのドイツ歌劇場で指揮者としてのキャリアをスタートさせます。その後、ドイツ各地の歌劇場で活躍し、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にもデビュー。1927年にはベルリンのクロル歌劇場の監督に就任、革新的な演出で話題を呼びました。しかし、ナチスの台頭により1933年、アメリカへ亡命します。

アメリカではロサンジェルス・フィルハーモニックなどを指揮し、オーケストラのレベル向上に貢献しました。しかし、脳腫瘍を患い、言語障害や身体麻痺の後遺症に苦しむことに。さらに、躁鬱病も悪化させ、奇行が目立つようになり、アメリカでの活動は途絶えました。

第二次世界大戦後、ヨーロッパに戻ったクレンペラーは、ハンガリー国立歌劇場の監督に就任しますが、政治的理由で辞任。その後、世界各地のオーケストラを客演しながら、北米ヴォックス・レコードやEMIと録音契約を結びました。特に、1954年から開始したフィルハーモニア管弦楽団とのレコーディングは、彼の名を世界に知らしめることになります。厳格で遅めのテンポ、楽曲の構造を重視するスタイルは、晩年の録音で特に顕著で、彼の音楽解釈の独自性を示すものとなりました。

マーラーとの出会い、そして独自の解釈

クレンペラーは、マーラーの交響曲第2番『復活』のピアノ版編曲をマーラー本人に高く評価され、推薦を受けました。この出会いはクレンペラーの音楽人生に大きな影響を与えます。マーラーの作品を重要なレパートリーとして演奏しましたが、全ての作品を演奏したわけではなく、一部の作品については批判的な見解も示しています。彼のマーラー演奏は、華美な演出を排し、冷徹で厳格な解釈が特徴であり、濃厚な表現を求める聴衆からは必ずしも好まれなかった側面もあります。しかし、その独自の解釈は、現在でも一定の評価を受けています。

数々の逸話：奔放な個性と人間性

クレンペラーは、数々の逸話で知られています。脳腫瘍や躁鬱病、そして舞台からの転落事故など、数々の病や怪我を経験しながらも、音楽活動を継続しました。彼の奇行の数々は、彼の複雑な人間性を示しています。例えば、寝室での火事、サナトリウムからの脱走、女性関係のスキャンダルなど、数々の騒動を起こしました。これらの逸話は、彼の音楽活動とは対照的な、奔放で型破りな一面を浮き彫りにしています。これらの行動の多くは、彼の病に起因するものでした。しかし、彼の周囲の人々は、その複雑な人間性を理解し、彼を支え続けたことも事実です。

オペラ指揮者としての功績

クレンペラーは、晩年の録音で名を馳せましたが、ドイツ時代からすでに一流のオペラ指揮者として活躍していました。クロル歌劇場監督時代には、予算や人員の制約の中で、無名の楽曲や現代音楽を積極的に取り上げ、斬新な演出を試みました。ワーグナー作品の上演においては、後に「新バイロイト様式」と呼ばれる演出を取り入れ、大きな反響を呼びました。

作曲家としてのクレンペラー

クレンペラーは指揮活動だけでなく、作曲にも取り組んでいました。しかし、彼の作曲作品は、今日ではほとんど知られていません。最も有名な作品は、歌劇「ダス・ツィール」からの「メリー・ワルツ」です。その他、交響曲、弦楽四重奏曲、ミサ曲、歌劇、歌曲などを残しましたが、これらの作品は彼の指揮者としての名声に比べて注目度が低いです。

フィルハーモニア管弦楽団との深い絆

クレンペラーとフィルハーモニア管弦楽団の関係は、彼が終身の契約を結び、楽団の常任指揮者、そして後に会長に就任するほどに深まりました。楽団がニュー・フィルハーモニア管弦楽団として再出発した後も、その関係は継続しました。クレンペラーは、その独特な性格にもかかわらず、多くの音楽家から敬意を持って迎えられました。

死後

1973年にスイスで死去したクレンペラーですが、彼の膨大な録音は、現在でも世界中で愛され、再評価されています。EMIやその傘下のレーベルから多くの音源がリリースされており、近年では戦前・戦時中の録音も発掘され、CD化が進んでいます。彼の音楽は、時代を超えて聴く者を魅了し続けています。オットー・クレンペラーは、まさに20世紀を代表する、忘れがたい音楽家でした。

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