カーロ・ミオ・ベン

カーロ・ミオ・ベン (Caro mio ben)

『カーロ・ミオ・ベン』（伊語：Caro mio ben ）は、「いとしい人よ」という意味を持つイタリア語のアリエッタです。一般的にはトンマーゾ・ジョルダーニ作曲とされていますが、作詞者は不明です。愛する人に対して、自分のことを思ってほしいと願う切ない心情が歌われています。

原曲は弦楽四重奏と独唱で構成され、1782年以前にイギリスで作曲・出版されました。

概要

日本では声楽を志す人にとって、誰もが一度は歌うと言っても過言ではないほど有名な曲です。小中学校や高校の音楽教科書、また著名な声楽家である畑中良輔が編纂した『イタリア歌曲集』にも収録されています。

作曲者をめぐる問題

広く普及している楽譜では、作曲者が「ジュゼッペ・ジョルダーニ（1751年 - 1798年）」と記載されていることが多く見られます。しかし、これは誤りである可能性が高いです。ジュゼッペとトンマーゾには血縁関係はありません。

この誤情報の根源は、リコルディ社が出版した『イタリア古典アリア集 第2巻』（1890年、アレッサンドロ・パリゾッティ編）にあると考えられています。この楽譜に「ジュゼッペ・ジョルダーニ作曲」と記載されたことが、世界中に広まってしまったようです。今日、インターネット上で見られる情報も、ほとんどがジュゼッペ作曲としています。

これほど有名な曲であるにもかかわらず、長年にわたって大規模な調査や研究が行われてきませんでした。そのため、原典に関する情報がほとんど知られておらず、多くの出版社や編集者が、著作権の切れたパリゾッティ版を元に改変を施した楽譜を「新版」と称して出版し続けてきたという背景があります。

1980年代以降、ジョン・グレン・ペートンなどの研究者によって、『古典アリア集』に収録されている楽曲のオリジナル楽譜が調査され、原典版が作成されました。その結果、18世紀に成立した歌曲が、パリゾッティ版では19世紀の様式に改変されていること、さらにはパリゾッティ自身が作曲した歌曲が曲集に含まれていることなどが明らかになりました。

しかし、21世紀に入っても、パリゾッティ版を下敷きにした『イタリア歌曲集』の楽譜が新たに出版されることがあります。楽曲解説や譜面において、出所不明な改変や旧版の誤りが修正されずに、無批判に受け継がれている例も少なくありません。

歌詞

（歌詞は省略）

参考文献

ジョン・グレン・ペートン編「原典に基づく新イタリア歌曲集」 p.128- （2001年、音楽之友社）

関連項目

ジ・エキセントリック・オペラ
イタリア歌曲集

外部リンク

American Sheet Musicの無料楽譜 （※DとE♭の2種。パリゾッティ版以前の出版でより原曲に近いが、リプリントにつき誤りに要注意）
* カーロ・ミオ・ベンの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)（慶應義塾大学・南葵音楽文庫が所蔵する初版、あるいはそれに準じた初期出版譜がアップされている）

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