ガイセリック

ヴァンダル王ガイセリック：ローマ帝国を震撼させた異民族の王

ガイセリック（389年頃～477年）は、ヴァンダル族とアラン族を率いた稀代の軍略家であり、5世紀における西ローマ帝国、ひいては東西ローマ帝国の衰亡に大きな影響を与えた人物です。北アフリカにヴァンダル王国を建設し、地中海を制圧したローマ帝国の時代を終わらせ、ローマ略奪という象徴的な事件を引き起こしました。 彼の50年近い治世は、ヴァンダル族を小さな部族から地中海の主要勢力へと押し上げましたが、彼の死後、王国は衰退への道を辿ります。

ヴァンダル族の移動とガイセリックの誕生

ヴァンダル族は、ゲルマニア辺境地帯を転々とした後、ライン川を渡り、ヒスパニア（現在のスペイン）を目指してガリアを南下しました。その後、イベリア半島南部に移住しますが、スエビ族などとの領土争いに巻き込まれ、苦境に立たされます。ガイセリックは、ヴァンダル族の王ゴディギゼルの非嫡出子として、ハンガリー付近で誕生したと推測されています。容貌は華麗ではなく、背が低く足を引きずっていたと伝えられていますが、卓越した軍略家として頭角を現していきます。

アフリカ征服とヴァンダル王国の建国

406年のライン川越境後、ヴァンダル族は409年にイベリア半島へ入植。しかし、西ゴート族との抗争が激化し、428年、ガイセリックは残存勢力を率いて北アフリカへ進出します。当時、西ローマ帝国では、アフリカ総督ボニファティウスと将軍アエティウスの対立が激化しており、ガイセリックは内紛に乗じてアフリカに侵入、弱体化したローマ軍を次々と撃破しました。

ガイセリックは、マウレタニアからヌミディアへと進軍し、430年には、聖アウグスティヌスが司教を務めていたヒッポを包囲、アウグスティヌスは包囲中に死去しました。435年、ガイセリックは西ローマ帝国と和平条約を結び、マウレタニアとヌミディアの一部を領有するヴァンダル王国を建国しますが、これはあくまで暫定的なものでした。

439年、ガイセリックはカルタゴを占領。西ローマ帝国の穀倉地帯である北アフリカを掌握し、地中海制覇の野望を本格化させます。彼はローマ帝国の艦船を奪取し、強力な海軍を構築、シチリア島、サルディニア島、コルシカ島などを征服し、地中海各地を襲撃、西ローマ帝国の経済に打撃を与えました。

ローマ略奪

455年、西ローマ皇帝ウァレンティニアヌス3世が暗殺されると、後継者の妃エウドクシアはガイセリックに救援を求めます。これを口実に、ガイセリックはローマに侵攻し、ローマを略奪しました。この「ローマ略奪」は、２週間にも及び、ローマの財宝が持ち去られ、多くの住民が奴隷として連れ去られました。この事件は、「ヴァンダリズム（破壊行為）」という言葉を生み出すほど、ヨーロッパに衝撃を与えました。

ローマ帝国との戦争と和平

ローマ略奪後も、ガイセリックは東西ローマ帝国の攻撃を撃退し続けました。特に468年のボン岬半島の戦いでは、火攻めによって東ローマ帝国艦隊を壊滅させ、その勢力を示しました。しかし、474年、ガイセリックは東ローマ帝国と和平条約を結びます。

晩年と西ローマ帝国滅亡

477年、ガイセリックはカルタゴで88歳で死去します。彼の死後、ヴァンダル王国は衰退し、やがて東ローマ帝国によって滅ぼされます。しかし、ガイセリックは、辺境で生まれた異民族の王として、ローマ帝国を揺るがし、地中海世界に大きな影響を与えた歴史上の人物として記憶されています。彼の生涯は、民族大移動期のヨーロッパの混乱と、ローマ帝国衰亡の過程を象徴するものでした。

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