ガザミ

ガザミ（Portunus trituberculatus）

ガザミは、ワタリガニ科に分類されるカニの一種で、学名はPortunus trituberculatusです。一般的に「ワタリガニ」とも呼ばれ、食用として重要なカニとして知られています。ただし、地域によってはイシガニを「ワタリガニ」と呼ぶ場合もあります。

特徴

ガザミは甲幅が15cmを超える大型のカニで、オスの方がメスよりも大きくなります。甲羅の背面は黄褐色ですが、後半部分や鉗脚、脚などは青みがかっており、白い水玉模様が特徴的です。これは保護色としての役割を果たしています。腹側はほとんど白色で、毛や模様はありません。

甲羅は横長の六角形をしており、前縁にはギザギザのトゲが並び、左右には大きなトゲが突き出しています。鋏脚は頑丈で、多くのトゲがあり、挟む力も強いため、取り扱いには注意が必要です。第2脚から第4脚は普通のカニと同じ形状ですが、第5脚は平たく変形した「遊泳脚」となっており、これを使って海中を素早く泳ぐことができます。

ガザミとよく似たタイワンガザミを見分けるポイントとして、鋏脚長節（ハサミのつけ根から真ん中の関節までの部分）にあるトゲの数があります。ガザミには4本のトゲがありますが、タイワンガザミには3本しかありません。また、同じワタリガニ科のイシガニ類やベニツケガニ類は、甲羅の左右に大きなトゲが突き出しておらず、ガザミよりも小型で丸みを帯びた体格をしています。

生息地

ガザミは、北海道南部から屋久島周辺までの日本各地に分布しています。波が穏やかな内湾の、水深30mほどまでの砂泥底に生息しています。宮城県では、東日本大震災の影響で仙台湾南部に泥が堆積したことにより、2012年から生息数が急増し、2015年には漁獲量が全国1位となりました。

普段は砂に潜って目だけを出し、じっとしていることが多いです。肉食性が強く、小魚やゴカイ、貝類などを捕食します。一方、敵は沿岸性のサメやエイ、タコなどです。

生活環

ガザミの産卵期は春から夏ですが、交尾期は夏から秋にかけてです。交尾後、メスは体内に精子を蓄えたまま深場に移り冬眠します。冬眠から覚めたメスは晩春に産卵し、小さな卵を腹肢に抱えて保護します。孵化したゾエア幼生はプランクトンとして海中を漂い、メガロパ幼生を経て稚ガニとなります。稚ガニは浅瀬にも現れ、甲幅3cmほどの個体であれば、砂浜や干潟の水たまりで見つけることができます。

ガザミは年2回産卵することが知られており、春に生まれた卵は「一番子」、夏に生まれた卵は「二番子」と呼ばれます。一番子は秋までに成体となり繁殖に加わりますが、二番子がそうなるのは翌年です。寿命は2-3年ほどと考えられています。

食材としてのガザミ

ガザミは古くから食用として親しまれてきたカニで、タラバガニなどに比べると安価ですが、美味しく食べやすいのが特徴です。特に国内産の活きガニは高値で取引され、大型のものは高級品として扱われます。

漁期は晩春から初冬までですが、温暖な西日本では真冬でも漁獲されます。旬は秋から冬で、蟹肉やカニミソはもちろん、メスの卵巣（内子）も珍重されます。塩茹で、蒸しガニ、味噌汁など、様々な料理で楽しむことができます。

生きたガザミを熱湯に入れると自切してしまうため、急所を刺してから茹でるか、水から茹でる、または脚を固定してから調理するのが一般的です。現在では、水揚げ直後から輪ゴムを取り付けている場合もあります。

主な産地は有明海、瀬戸内海、大阪湾、伊勢湾、三河湾など、内湾を抱える地域です。これらの地域では、ガザミを観光資源として活用しており、佐賀県太良町周辺の「竹崎がに」や、福岡県北九州市などの「豊前本ガニ」といったブランドガニも存在します。

近年、乱獲により日本での漁獲高が減少傾向にあり、国産品は高級食材となりつつあります。そのため、中国や韓国、東南アジアなどからの輸入も増加しています。

別名

ガザミは地域によって様々な別名で呼ばれています。代表的なものとしては、ワタリガニ、竹崎カニ（佐賀県）、豊前本ガニ（福岡県北九州市ほか）、ガンツ（岡山県）、ガネなどがあります。

近縁種

ガザミ属（Portunus属）には数種類の近縁種が存在し、そのほとんどが食用とされています。

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