ガスパール・ド・プロニー

ガスパール・ド・プロニー

ガスパール・クレール・フランソワ・マリー・リッシュ・ド・プロニー（Gaspard Clair François Marie Riche de Prony、1755年7月22日 - 1839年7月29日）は、フランスの多才な学者であり、特に数学と工学の分野で顕著な業績を残しました。彼は水力学や大規模な数表編纂において、その名を馳せています。

生涯と経歴

プロニーは1755年、フランス中東部のローヌ県シャムレ（Chamelet）に生まれました。彼はフランスの技術教育機関において重要な役割を果たし、国立土木学校では主任技術者という要職を務めました。この立場を通じて、彼は理論的な知識と実践的な工学応用を結びつける研究に従事しました。

数学における貢献：大規模数表の編纂

プロニーの数学分野における最も記念碑的な業績の一つは、膨大な対数表および三角関数表の作成プロジェクトです。彼は1792年から、このプロジェクトを「台帳（Cadastre）」と名付けて開始しました。当時の計算手法では、正確な数値を得るために精緻な数表が不可欠であり、この事業は国家的な重要性を持っていました。

プロニーは、数学者のルジャンドルらの協力を仰ぎつつ、驚くべき規模の体制を敷きました。彼は約70人から80人もの助手を雇い入れ、彼らを組織して数表の計算にあたらせました。この作業は約1年間続けられましたが、完成した数表はあまりに巨大であったため、その全貌が完全な形で出版されることはありませんでした。最終的に、その一部が刊行されたのは、プロジェクト開始から数年が経過してからでした。この事業は、分業による大規模計算プロジェクトの初期の例としても知られています。

水力学における業績

工学者としてのプロニーは、特に水力学の分野で重要な貢献をしました。1812年には、機械や発動機の性能を測定するための装置を開発しました。これは現在「プロニー・ブレーキ（Prony brake）」として知られており、回転体のトルクを測定することでその動力（仕事率）を割り出すための先駆的な装置です。

また、彼は流体が管路を流れる際に発生するエネルギー損失、すなわち「管摩擦損失」を見積もるための経験式を導出しました。この式はプロニーの式と呼ばれています。

プロニーの式は以下の形で表されます。

$$ h_{f} = \frac{L}{D}(aV+bV^{2}) $$

ここで、

$h_{f}$ は摩擦による水頭損失（エネルギー損失）
$L$ は管の長さ
$D$ は管の直径
$V$ は流体の平均速度
* $a$ および $b$ は、管の表面の状態（粗さ）や流体の性質に依存する定数です。

この式は、管路内の流体の速度$V$に対して、摩擦損失が線形項（$aV$）と二乗項（$bV^2$）の組み合わせで表現されることを示しています。これは、後により広く使用されるようになるダルシー・ワイスバッハの式（Darcy-Weisbach equation）に先立つ重要な成果でした。

ガスパール・ド・プロニーは、その生涯を通じて、基礎科学としての数学と、それを応用する工学分野の両方で革新的な仕事に取り組み、後世に大きな影響を与えました。

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