ガッライ

ガッライ：キュベレー神に仕えた去勢神官

古代ローマ帝国において、フリギアの女神キュベレー信仰の中心的な存在として活動していたのが、ガッライ（Galli）と呼ばれる去勢神官たちです。彼らは自らの意思で去勢を行い、キュベレーへの深い信仰を示していました。特に、3月24日の「血の日(Dies Sanguinis)」と呼ばれる祝祭において、この儀式が行われていたと伝えられています。

ガッライのリーダーは当初battakesと呼ばれていましたが、後にarchigallus（アルキガッルス）と呼ばれるようになりました。彼らの信仰は、当時小アジアに存在した他の宗教集団と共通点が多く、アタルガティス神（シリア）やアルテミス神殿（エフェソス）の神官たちと同様、去勢した神官たちが存在していました。古代ローマの著述家たちは、こうした神官たちを「宦官」として記述しています。

ガッライという名称の由来については諸説あります。有力な説としては、フリギア地方を流れるガッルス川にちなんでいるというものです。キュベレーの神殿がガッルス川の近くに建立されており、その川の水を飲むと狂気に陥り、自らを去勢するという伝説が流布していた可能性が指摘されています。

一方、歴史家ヒエロニムスは、ガッライという呼称は、ローマに火を放した罪で去勢されたガリア人に由来すると主張していました。しかし、フリギア人がローマを襲撃したという歴史的証拠はなく、この説は信憑性に欠けるとされています。ヒエロニムスの主張は、彼の強い反異教、反ガリア的な立場に影響されていると考えられます。また、ラテン語で「雄鶏」を意味するgalliの複数形が語源という説も存在します。

ガッライがローマに初めて登場したのは紀元前203年、キュベレーがローマ国家の神として正式に迎え入れられた時でした。しかし、1世紀になるまでローマ市民がガッライになることは禁じられており、この禁を解いたのはクラウディウス帝でした。

その後、ガッライの動向に関する記録は断片的です。これは、391年にテオドシウス1世が異教の弾圧を強化したためです。キュベレー信仰を含む多くの異教は迫害を受け、ローマのキュベレー神殿は破壊され、その跡地にはサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂が建設されました。このため、ガッライに関する情報は、歴史書や古文書からの断片的な記述に限られています。

ガッライの信仰は、古代ローマの宗教、社会、そして異文化交流を理解する上で重要な要素です。彼らの存在は、古代世界における宗教的熱狂と社会構造、そして異教徒に対するローマ帝国の政策を理解する上で、重要な手がかりを与えてくれます。彼らの信仰がどのように発展し、衰退していったのか、さらなる研究が求められています。また、ガッライの儀式や生活、社会における役割など、未解明な点も多く、今後の研究によってより詳細な理解が進むことが期待されます。彼らがローマ社会に及ぼした影響や、その信仰がどのように人々の生活に根付いていたのかを解き明かすことは、古代ローマの歴史をより深く理解することに繋がります。

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