ガブリエル・デストレ

ガブリエル・デストレは、1573年にブールデジエール城で生まれ、フランス王アンリ4世の愛妾として歴史に名を刻みました。彼女の生涯は、単なる愛妾という枠を超え、政治的影響力を持つ女性としての側面が強く、アンリ4世の治世において重要な役割を果たしました。

アンリ4世との出会い

ガブリエルは21歳の時、アンリ4世の愛妾となりました。当時、アンリはカトリック同盟との戦いの最中にあり、マルグリット・ド・ヴァロワと結婚していたものの、事実上の別居状態でした。アンリとガブリエルは、公然と愛し合い、その関係を隠そうとしませんでした。彼女はアンリの遠征にも同行し、臨月であっても戦場近くの陣営に留まり、王の世話を焼きました。ガブリエルは知的で現実的な女性であり、アンリはしばしば彼女に意見を求め、政治的な判断を下す際の重要な相談相手となっていました。

政治への影響力

カトリック教徒であったガブリエルは、内戦を終結させるためにはアンリ自身がカトリックに改宗すべきだと考えていました。彼女の助言もあり、アンリは1593年にカトリックに改宗し、翌年には戴冠式を執り行いました。アンリはガブリエルへの感謝として、彼女の結婚を無効にし、モンスー伯爵夫人の称号を授与しました。

ガブリエルは、アンリの最も有能な外交官の一人であり、カトリック同盟内の女性の友人たちを動員して和平交渉を有利に進めました。彼女はアンリと共に馬に乗り、狩猟や遠乗りを楽しむなど、公私ともに親密な関係を築いていました。約7年もの間、ガブリエルはアンリの事実上の妻として振る舞い、3人の子供をもうけました。1597年には、ボーフォール公爵夫人の称号を与えられ、その影響力はさらに増大しました。

急逝と死後の扱い

1599年、アンリはガブリエルとの再婚を考え、教皇庁にマルグリットとの結婚の無効を申請しました。ガブリエル自身も「神様か王様の死亡以外に、私の幸運を断ち切れるものはない」と豪語していましたが、その直後、突然重病に倒れ、4月初旬に男児を死産しました。彼女の重態を知ったアンリは、フォンテーヌブロー宮殿から急ぎ駆けつけようとしたものの、その途上で彼女の訃報を知らされました。

アンリはガブリエルの死に深く絶望し、黒衣をまとって喪に服しました。これはフランス王としては異例の行動でした。彼女の葬儀は王妃として扱われ、その棺は王子や王女たちに付き添われ、サン＝ドニ大聖堂へと運ばれました。ガブリエルの死後、毒殺説が囁かれましたが、真相は不明です。

子供たち

ガブリエルとアンリの間には、以下の子供たちがいました。

セザール・ド・ブルボン（1594年 - 1665年）：フランソワーズ・ド・メルクールと結婚
カトリーヌ・アンリエット（1596年 - 1663年）：エルブフ公シャルル2世と結婚
アレクサンドル（1598年 - 1629年）：シュヴァリエ・ド・ヴァンドームと呼ばれる
男児（1599年、死産）

ガブリエル・デストレは、愛妾という立場を超え、フランスの歴史において特別な存在として記憶されています。彼女は、アンリ4世の政治的パートナーとして、また、賢明で現実的な女性として、その生涯を輝かせました。

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