ガリーナ・ウストヴォーリスカヤ

ガリーナ・ウストヴォルスカヤ：ソ連時代の影から生まれた神秘的な音楽

ガリーナ・イワーノヴナ・ウストヴォルスカヤ（1919年-2006年）は、20世紀後半を代表するロシアの作曲家です。サンクトペテルブルク（旧ペトログラード）に生まれ、レニングラード音楽院で、かの有名なドミートリイ・ショスタコーヴィチに師事しました。師と弟子、そして個人的にも非常に親密な関係にあったと伝えられていますが、彼女の音楽には、ショスタコーヴィチの影響は全く感じられません。

ウストヴォルスカヤは、卒業後もショスタコーヴィチから個人指導を受けました。しかし、彼女の作曲スタイルは、師とは全く異なる道を歩みます。社会主義リアリズムに迎合するような愛国的な作品ではなく、神秘主義的な、内省的な作品を創作し続けました。その独自のスタイルは、ソ連時代の閉鎖的な社会風土の中では、なかなか日の目を見ることはありませんでした。

彼女の作品は、ピアノソナタや弦楽のための協奏曲、交響曲など、規模や形式は多岐に渡ります。しかし、総数は決して多くありません。ソ連時代の公式的な作品を除くと、20曲にも満たない数しかありません。その少ない作品の一つ一つに、深い思想と、独自の音楽言語が凝縮されています。彼女の音楽は、複雑で、時に難解であると評される一方で、聴く者の心に強く訴えかける、独特の力を持っています。

ペレストロイカとソ連崩壊後、ウストヴォルスカヤの作品は、ようやく広く演奏・録音されるようになりました。現在では、ショスタコーヴィチの弟子の中でも、最も演奏機会の多い作曲家の1人となりました。しかし、晩年はロシア国内で質素な生活を送っていたと言われています。2006年、87歳でサンクトペテルブルクにて亡くなりました。

主要作品

ウストヴォルスカヤの作品は、その少ない数にも関わらず、高い評価を得ています。代表的な作品には、以下のものがあります。

ピアノと弦楽合奏、ティンパニのための協奏曲 (1946年)
ピアノ・ソナタ第1番～第6番 (1947年、1949年、1952年、1957年、1986年、1988年)
クラリネット、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲 (1949年)
オーボエ、4つのヴァイオリン、ティンパニとピアノのための八重奏曲 (1950年)
ヴァイオリン・ソナタ (1952年)
ピアノのための12の前奏曲 (1953年)
交響曲 第1番～第5番 (1955年、1979年、1983年、1985年、1989年/1990年)
ピアノとチェロのための大二重奏曲 (1959年)
ピアノとヴァイオリンのためのデュエット (1964年)
コンポジション第1番～第3番 (1971年、1973年、1975年)

これらの作品は、複雑なリズムや不協和音、そして独特の和声感を特徴としています。しかし、その奥底には、深い精神性と、人間の存在への問いが感じられます。彼女の音楽は、単なる音の組み合わせではなく、魂の叫びとも言えるでしょう。

ウストヴォルスカヤの音楽的特徴

ウストヴォルスカヤの音楽は、その神秘主義的な性質から、多くの聴衆にとって、容易に理解できるものではありません。しかし、彼女の音楽を深く理解しようと努めることによって、新たな音楽世界への扉が開かれることでしょう。彼女の音楽は、私たちに、音楽の持つ可能性、そして人間の心の深淵を改めて認識させる、大きな力を持っています。

彼女の作品は、演奏機会の増加に伴い、近年、世界中で再評価が進んでいます。その独特の音楽世界は、現代音楽史に重要な足跡を残すものと言えるでしょう。 ショスタコーヴィチという巨匠の薫陶を受けながらも、独自の道を歩んだウストヴォルスカヤの音楽は、これからも多くの聴衆を魅了し続けることでしょう。

参考文献

Lemaire, Frans. Notes to Symphonies 2,3,4 and 5. Megadisc MDC 7854.
Music under Soviet Rule:The Lady With The Hammer

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