ガンツ・クライネ・ナハトムジーク

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1756年-1791年）によって作曲された可能性が高いとされる弦楽三重奏曲に「ガンツ・クライネ・ナハトムジーク ハ長調」があります。ドイツ語で「非常に小さな夜の音楽」を意味するこの楽曲は、ケッヘル番号648番が付与されています。長らくその存在が不明瞭でしたが、2024年9月、ドイツのライプツィヒ市立図書館がこの曲の筆写譜が再発見されたことを公表し、音楽界に大きな注目を集めました。編成はヴァイオリン2パートとチェロによる弦楽三重奏です。

名称と概要

この楽曲は、モーツァルトの姉であるナンネルが1800年2月8日にブライトコップ社へ送った書簡の中で言及した「私は２つのヴァイオリンとバスからなる非常に小さなナハトムジーク eine ganz kleine Nachtmusik [KV 41g] を持っている」という記述にある曲と同一のものではないかと考えられています。再発見された筆写譜では曲のタイトルが「Serenata ex C」と記されていますが、モーツァルトの全作品を網羅する権威ある目録であるケッヘル目録の最新版（第9版）では「Serenade in C」として収録されています。同目録によれば、この楽曲の作曲時期は1766年から1769年の間、作曲地はザルツブルクまたはウィーンと推定されています。

真正性に関する評価

ケッヘル目録第9版では、この楽曲の真正性について「疑わしい（Echtheit: zweifelhaft）」との見解を示しつつも、「モーツァルトが作曲者である可能性が非常に高い（Mozarts Autorschaft ist sehr wahrscheinlich.）」と付記しており、専門家の間でもその帰属については慎重な判断がなされています。

楽曲構成

この「ガンツ・クライネ・ナハトムジーク」は、以下の6つの楽章から構成されています。

行進曲（Marche）
アレグロ（Allegro）
メヌエットとトリオ（Menuet mit Trio）
ポロネーズ（Polonoise）
アダージォ（Adagio）
メヌエットとトリオ（Menuet mit Trio）

再発見の詳細

この楽曲の存在が再び明らかになったのは、ケッヘル目録の最新版を編集する過程でのことでした。編集作業を進める中で、ライプツィヒ市立図書館が所蔵するカール・フェルディナント・ベッカー・コレクションの中から、これまで音楽学者の間で知られていなかったこの楽曲の手稿が発見されたのです。ただし、発見された手稿はモーツァルト自身が記したオリジナルの自筆譜ではなく、1780年に作成された筆写譜、つまりコピーであることが確認されています。この筆写譜の表紙には「ヴォルフガング・モーツァルト氏の（Del Sigℓ: Wofgang Mozart）」という記述があり、中間の白色の手すき紙に焦げ茶色のインクを用いて記されています。また、各パート譜は個別に製本されているという特徴が見られます。

音楽史的意義と専門家の評価

ザルツブルクにある国際モーツァルテウム財団の代表を務めるドイツの音楽学者ウルリッヒ・ライジンガー氏は、この楽曲について「アリア、交響曲、ピアノ曲を中心に作曲していた当時のモーツァルトの他の作品と比べて珍しい編成である」とコメントしており、再発見されたこの作品が当時のモーツァルトの作曲活動における新たな側面を示唆している可能性を指摘しています。

現代における展開

再発見の公表後、この楽曲は現代において再び演奏される機会を得ました。2024年9月19日にはオーストリアのザルツブルクで世界初演が行われ、続いて同年9月21日にはドイツのライプツィヒ歌劇場でドイツ国内初演が開催されました。また、同日には楽譜の商業出版も開始されました。Score ExchangeおよびSheetMusicDirectといったプラットフォームを通じて、発見された筆写譜のパート譜を基にした最初の出版楽譜が入手可能となっています。

まとめ

「ガンツ・クライネ・ナハトムジーク K.648」の再発見は、モーツァルトの初期作品に関する理解を深める上で貴重な機会を提供しました。その真正性については今後の研究が待たれますが、ナンネルの手紙の記述との関連性や、ケッヘル目録における評価、そして再発見された筆写譜の詳細な分析を通じて、18世紀後半のモーツァルトの創作活動の一端に触れることができるでしょう。この作品が今後の演奏活動や研究にどのように影響を与えていくのか、引き続き注目が集まります。

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