国際モーツァルテウム財団

オーストリアの古都ザルツブルクに拠点を置く国際モーツァルテウム財団（ドイツ語: Die Internationale Stiftung Mozarteum）は、偉大な音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに関するあらゆる事柄を対象に、その学術的な研究、関連資料の収集・保存、そして彼の作品と生涯の普及を目的とする非営利の民間財団です。世界的に見ても、モーツァルト研究・普及における中心的な役割を担っています。

財団の本部建物は、ザルツブルク新市街、マカルト橋に近い場所にあります。かつてはザルツブルク・モーツァルテウム大学と同じ建物を使用していましたが、現在は財団単独で入居しています。この建物の隣には、財団が管理運営するモーツァルテウム大ホールが併設されています。

主な事業

国際モーツァルテウム財団は、多岐にわたる活動を通じてモーツァルトの遺産を継承し、後世に伝えています。

研究とコレクションの収集

財団は、モーツァルトに関する世界屈指の貴重なコレクションを収蔵しています。自筆稿コレクションには、モーツァルト本人のもの約190通、父親レオポルドのもの約370通に及ぶ手紙に加え、スケッチや下書き、さらには完成された自筆スコアなど、100点を超える貴重な自筆譜を収蔵しています。また、約3万5,000点を誇る「モーツァルティアーナ図書館」は、モーツァルトに関する専門図書館として世界最大規模を誇ります。

学術研究の成果として、1954年に編纂が始まった、歴史批判的な『新モーツァルト全集（Neue Mozart-Ausgabe）』は、2007年に無事完結しました。これはモーツァルト作品の楽譜に関する最も信頼性の高い資料とされています。国際モーツァルト財団では、この全集の楽譜データを全てデジタル化し、「NMA オンライン」としてウェブサイト上で無償公開しており、世界中の研究者や音楽愛好家が利用できるようになっています。

国際モーツァルト週間の開催

1956年以来、財団は毎年モーツァルトの誕生日である1月27日の前後に、国際的な音楽祭である「国際モーツァルト週間」を開催しています。この音楽祭では、モーツァルトの作品を中心に、彼と同時代、あるいは影響を受けた作曲家の作品が演奏されます。近年では現代音楽がプログラムに取り入れられるなど、多様な試みも行われています。世界中から著名な演奏家や指揮者が集まり、ザルツブルクの街がモーツァルト一色に染まる重要なイベントです。2006年にはモーツァルト生誕250年を祝い、ニコラウス・アーノンクールが「アーチスト・イン・レジデンス」を務め、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団なども参加しました。

モーツァルト美術館の運営

財団は、ザルツブルク市内にある二つのモーツァルト美術館、すなわちモーツァルトの生家と住家を運営しています。これらの美術館では、モーツァルトゆかりの遺品や資料を大切に保管・展示しており、彼の生涯をたどることができます。

ゲトライデガッセに位置するモーツァルトの生家は、彼が生まれ、青年期までを過ごした場所であり、近年修復作業が行われました。マカルト広場に面したモーツァルトの住家（通称「舞踏教師の家」）は、一家が移り住んだ場所ですが、第二次世界大戦中の空襲で破壊されました。しかし、1996年に日本の第一生命保険からの多大な資金援助を得て見事に再建されました。住家内部では、ソニー提供の音響機器を用いてモーツァルト作品を鑑賞できるコーナーもあります。さらに、ザルツブルクから東南東へ約24km離れたザンクト・ギルゲンには、モーツァルトの母アンナ・マリア・ヴァルブルガ・ペルトルが生まれた家があり、ここもモーツァルト記念館（Mozarthaus St. Gilgen）として財団の管轄下にあります。

関連施設

財団本部建物に隣接するモーツァルテウム大ホール（Großer Saal）は、約800席のシューボックス型ホールです。1910年から1914年にかけて、ミュンヘンの建築家リヒャルト・ベルンドルによって設計されました。特に室内楽や、モーツァルトが生きた時代の編成に近いオーケストラによる演奏に適した優れた音響で知られています。夏のザルツブルク音楽祭期間中には、モーツァルテウム管弦楽団による「モーツァルトマチネ」や室内楽コンサートの主要会場の一つとなります。また、同じ建物内には約200席のウィーン・ホール（Wiener Saal）もあります。

ホールの裏手には「バスチオン（砦）庭園」があり、そこにはモーツァルトがオペラ「魔笛」の一部を作曲したと伝えられる、通称「魔笛の小屋」が移築・保存されており、見学ツアーが実施されています。

国際モーツァルテウム財団は、これらの多様な活動と施設を通じて、モーツァルトの音楽遺産を現代に伝え、研究し、多くの人々にその魅力を届け続けています。

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