ガヴリロ・プリンツィプ

ガヴリロ・プリンツィプ：サラエボ事件の引き金となった青年

ガヴリロ・プリンツィプ（1894年7月25日 - 1918年4月28日）は、20世紀初頭のヨーロッパに激震をもたらしたサラエボ事件の実行犯として知られる、セルビア人青年です。ボスニア出身の彼は、オーストリア＝ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺し、第一次世界大戦の引き金となる事件を引き起こしました。プリンツィプは、セルビア民族主義を掲げる秘密結社「青年ボスニア」の活動家であり、その行動は、後の歴史に大きな影響を与えました。

生涯

生い立ち

プリンツィプは、1894年にボスニア・ヘルツェゴビナの貧しいセルビア人農家に生まれました。9人兄弟でしたが、幼少期に多くの兄弟を亡くすという悲しい経験をしています。病弱だったプリンツィプは、セルビア正教の主教の勧めにより、「ガヴリロ」（大天使ガブリエルに由来）と名付けられました。父はオスマン帝国に対するヘルツェゴビナ蜂起に参加した過去を持ち、蜂起後も貧しい生活を送っていました。

プリンツィプは、父の反対を押し切って小学校に進学し、優秀な成績を収めました。13歳の時、兄の勧めでサラエボに移り住みましたが、士官学校への入学は諦め、商業学校に進学。兄が学費を工面していました。卒業後、故郷に戻りギムナジウムに進学すると同時に、ボスニア・ヘルツェゴビナ総督暗殺未遂事件の実行犯ボグダーン・ツェラジッチの影響を受け、大セルビア主義に傾倒していきます。

民族運動

1911年、プリンツィプはセルビアの分離独立を目指す革命組織「青年ボスニア」に参加し、秘密裏に会合を重ねました。1912年には反オーストリア＝ハンガリー帝国デモを主催したため、ギムナジウムから退学処分を受けました。退学後、ベオグラードへ向かい、黒手組のメンバーにゲリラ運動への参加を志願しますが、身長が基準に満たず拒否されます。その後、反オスマン組織セルビア革命組織メンバーとの接触を経て、暗殺や爆弾製造の訓練を受けました。

サラエボ事件

20世紀初頭、バルカン半島では、汎スラヴ主義と汎ゲルマン主義が対立していました。ボスニア・ヘルツェゴビナは、オーストリア＝ハンガリー帝国の支配下にありながら、住民の多くがスラヴ系であり、大セルビア主義・汎スラヴ主義が台頭していました。

1914年6月28日、オーストリア皇太子フランツ・フェルディナントが妃ゾフィーとともにサラエボを訪問。大セルビア主義を掲げる黒手組は、皇太子暗殺を計画し、プリンツィプもこの計画に加わりました。

暗殺当日、複数の実行犯が配置され、プリンツィプは偶然にも皇太子の車と遭遇し、銃を発砲。皇太子夫妻は死亡しました。

死去

逮捕されたプリンツィプは、事件当時20歳未満だったため死刑を免れ、懲役20年の刑を宣告されました。テレージエンシュタット要塞刑務所に収監されますが、劣悪な環境と持病の悪化により、1918年4月28日に獄中で亡くなりました。

死後、遺体は民族主義者の聖地になることを避けるため秘密裏に埋葬されましたが、墓地には「セルビア人の永遠の英雄」と書かれた記念碑が建てられました。

遺物・記念碑

プリンツィプが使用した拳銃は、ウィーン軍事史博物館に展示されています。また、生家は博物館として公開されましたが、ユーゴスラビア紛争で破壊され、再建されていません。

後世の評価

プリンツィプの行動は、第一次世界大戦の引き金となり、多くの人々に悲劇をもたらしました。そのため、彼の評価は賛否が分かれています。英雄とみなす意見もあれば、テロリストとみなす意見もあります。

2014年には、プリンツィプの銅像が建てられ、除幕式が行われました。また、2015年にはベオグラードにも像が建てられました。

ガヴリロ・プリンツィプは、20世紀の歴史において、複雑な遺産を残した人物として、記憶されています。

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