ガートルード・ジーキル

ガートルード・ジーキル（Gertrude Jekyll, 1843年11月29日 - 1932年12月8日）は、イギリスを代表する園芸家、作庭家です。彼女は、その多才さから画家、工芸家、著述家としても活躍し、19世紀から20世紀にかけてのイギリスにおけるアマチュア園芸作家の先駆者として知られています。

生涯と活動

1843年、ロンドンの名家に生まれたジーキルは、若い頃は画家として活動していました。しかし、ジョン・ラスキンの影響を受け、美術工芸の分野にも進出。数々の作品を手がけましたが、眼病を患い、工芸家としての活動を中断せざるを得なくなります。その一方で、若い頃からアマチュアの園芸作家としてガーデニングやガーデンデザインに携わっていました。後半生は、色彩を重視した植栽設計で著名なガーデンデザイナーとして活躍し、園芸に関する著作も多数発表しています。

1880年代には、雑誌編集者であったウィリアム・ロビンソンと親交を深め、従来のイギリス風景式庭園よりも自然風の植栽や自生植物を活かした庭づくりを提唱しました。さらに、建築にも関心を広げ、1890年頃には自邸マンステッド・ウッドの建築設計を依頼した建築家エドウィン・ラッチェンスと共に活動しました。彼らとの協働を通じて、整形式と自然式の庭園を融合させ、コテージガーデンに代表されるガーデニング手法の源流を築きました。1932年、89歳で生涯を閉じました。

庭園設計における特徴

画家志望であったジーキルは、庭園をキャンバスに見立て、絵画の手法を設計に取り入れました。特に色彩理論を重視し、四季によって変化する色別のテーマを持つ花壇を自宅にデザインしたことが、その始まりと言われています。彼女の色彩計画は、植物の形や質感だけでなく、色彩の調和を追求し、互いに補完し引き立てあう状態を目指しました。この色彩設計は、イングリッシュ・ガーデンや現代のガーデニングに大きな影響を与えています。

ジーキルは、花弁の草本による色彩の組み合わせを「ドリフト」と表現しました。この「ドリフト」とは、植物がお互いの弱点を軽減し合い、巧妙に調和する状態を指します。彼女は植物を単に配置するだけでなく、植物同士の相性や成長パターンを考慮し、自然で美しい庭園を作り上げました。

影響と遺産

ジーキルは、1904年から1909年にかけて手がけたヘスター・コムの庭をはじめ、生涯で2000もの庭園プランニングと200の庭園を設計しました。しかし、現存している庭園は多くありません。彼女の残した著作や設計図は、今日でも多くのガーデナーや庭園デザイナーに影響を与えています。ジーキルの色彩に対する深い理解と、自然を尊重した庭園設計は、現代のガーデニングの礎となっています。

参考文献

ジーキルの美しい庭―花の庭の色彩設計、ガートルード・ジーキル、リチャード・ビスグローブ（著）、 恵泉女学園大学園芸文化研究所（監修）、土屋昌子（訳）、平凡社、2008年。
地域開発 財団法人日本地域開発センター 2002年11月号。
* 庭の楽しみ―西洋の庭園二千年、アン・スコット=ジェイムズほか（著）、横山正（訳）、鹿島出版会、1998年。

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