ガープの世界

『ガープの世界』

ジョン・アービングが1978年に発表した小説『ガープの世界』は、彼の4作目の作品であり、アメリカ文学における重要な位置を占めています。この物語は、アービング自身の自伝的要素を含みつつ、暴力と死という現実をコミカルに描写することで、深いメッセージを伝えています。作品は、1980年に全米図書賞を受賞し、以降何年にも渡ってアメリカでベストセラーとなりました。特にその巧みなストーリーテリングが評価され、アービングは現代アメリカの重要な小説家の一人となりました。

あらすじ

物語は主人公であるT・S・ガープの出生から始まります。彼の母、ジェニー・フィールズは看護師であり、子供を望むものの、夫は不要と考えており、一方的にセックスを求める堅い意志を持っていました。ある日、彼女は意識不明の状態で寝たきりの男性、三等曹長のガープの看護をすることになります。彼女は、彼が植物人間でありながらも、その男性と一方的に関係を持ち、彼の子供を宿します。こうしてT・S・ガープがこの世に生を受けます。

成長するガープは、セックス、レスリング、そして物語を書くことに興味を持つようになりますが、母親のジェニーはそれらにはあまり興味を示しません。1961年、ガープが高校を卒業した後、彼女は彼をウィーンへ旅行に連れて行き、彼はそこで初めての短編小説を書き上げます。彼は作家としての道を歩み始め、レスリングのコーチの娘と結婚し、3人の子供をもうけます。

一方で、ジェニーは自伝『性の容疑者』を執筆し、ベストセラー作家となり、フェミニストの象徴として注目を集めます。ガープは良き父となるべく努力し、子供たちの安全を願う一方で、世界の危険が彼らを脅かすことに常に不安を抱きます。家族は様々な暗い出来事に巻き込まれつつも、その経験を通じて成長していきます。

ガープは、人生の中で出会った多くの女性たちから学び、時には厳しい方法で彼らの価値観を問い直しながら、より寛容な人間になろうと努めます。物語は悲劇に満ちていますが、登場人物たちが経験する滑稽な出来事に触発された真実を浮き彫りにしています。

映画化

この小説は1982年に映画化され、ジョージ・ロイ・ヒルの監督の下、ロビン・ウィリアムズとグレン・クローズが主演しました。ガープ役にウィリアムズ、ジェニー役にクローズがキャスティングされ、性転換したロベルタ役にはジョン・リスゴーが配役されています。映画はニューヨーク州の私立学校で撮影され、アーヴィング本人とヒル監督もカメオ出演を果たしています。クローズとリスゴーはアカデミー賞の助演賞にノミネートされ、それぞれ他の映画賞も受賞しました。

日本における評価

『ガープの世界』は日本でも文学研究者や作家たちから注目を集め、大江健三郎や村上春樹によって紹介されました。日本語訳は1983年に発表され、以来多くの読者に親しまれています。特にアーヴィングの独自の視点とユーモアが評価され、作品はアメリカ文学の中で特異な存在感を放っています。

この小説はただのフィクションではなく、人生や社会に対する考察が入り混じっており、読者に深い思索を促します。アービングの作品は、単なる物語ではなく、人間の本質を探索する旅でもあるのです。

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