キキーモラ

キキーモラ：スラヴの伝承に息づく謎の幻獣

キキーモラ（ロシア語: кики́мора, ラテン文字表記例: Kikimora）は、スラヴの民間伝承に登場する、非常に興味深い幻獣です。その正体は謎に包まれており、伝承によってさまざまな姿や行動が語られています。一般的には、働き者には幸運をもたらし、怠け者には災いをもたらす存在として知られています。

名前の由来

キキーモラの名前は、「キキー」と「モーラ」の二つの部分に分解できると考えられています。「キキー」の部分は正確な意味が不明で、さまざまな説がありますが、鳥の鳴き声のような擬音語「キーキー」に由来するという説が有力です。「モーラ」は、スラヴの民間伝承に登場する吸血夢魔「モーラ」を指します。この名前の由来からも、キキーモラが持つ神秘的な側面がうかがえます。

外見の多様性

キキーモラの外見は、伝承によって大きく異なります。ある伝承では、狼のような顔、白鳥のような嘴、熊のような胴体、鶏のような足、そしてボルゾイ犬のような尾を持つとされています。この奇妙な組み合わせは、キキーモラの特異な性質を表しているかのようです。一方で、小柄で痩せた、背の曲がった老婆の姿で描かれることもあります。さらに、不幸な子供の死霊がキキーモラになると信じられている地域もあり、その姿は決して年を取らない少女であるとも言われています。これらの多様な外見は、キキーモラが持つ多面性を象徴していると言えるでしょう。

行動と性格

キキーモラは、普段は目立つのを嫌い、家の木陰などにひっそりと隠れているとされています。しかし、その行動は一様ではありません。働き者には願いを叶え、幸運をもたらす一方で、怠け者を見つけると餌として喰らってしまうという怖い一面も持っています。性格は基本的におっとりしていて、危害を加えられても抵抗しないとされていますが、夜になると大暴れし、騒音を撒き散らす妖精として語られることもあります。

特に、キキーモラは機織りに強い関心を持つとされ、夜中に大きな音を立てて機を織ると伝えられています。また、老婆の姿で描かれる場合は、家との結びつきが強く、家の中で騒ぎを起こして安眠を妨げたり、火事や病気などの災いをもたらすと恐れられています。さらに、よそから来た大工がキキーモラを新築の家の中に閉じ込め、細工や呪術に利用するという迷信も存在します。

キキーモラが登場する作品

キキーモラは、その独特なキャラクターから、様々な創作物にも登場しています。

小説: 香山滋の短編小説『キキモラ――してやられた妖精』(1952年)では、他人の幸福を妬み不幸にしようとする人間の少女の姿をした妖精として描かれています。
漫画: 『モンスター・コレクション』(2000年)や『靴ずれ戦線』(2012年)など、ファンタジー系の漫画に登場しています。
短編: 怪談レストランの『死神レストラン「糸をつむぐ死神」』(2004年)や『人形レストラン「屋根裏のキキーモラ」』(2004年)など、ホラー作品にも登場しています。
ゲーム: 『魔導物語』や『ぷよぷよ』シリーズ(1994年)、『真・女神転生デビルサマナー』(1995年)、『デビルサマナー ソウルハッカーズ』(1997年)、『あやかしびと』(2005年)など、様々なジャンルのゲームに登場しています。
楽曲: アナトーリ・リャードフの管弦楽曲『キキーモラ』(1909年)は、キキーモラの神秘的な雰囲気を音楽で表現しています。

これらの作品を通じて、キキーモラは様々な姿や性格を与えられ、現代においても多くの人々に親しまれています。

まとめ

キキーモラは、スラヴの豊かな民間伝承が生み出した、多面的で魅力的な幻獣です。その名前の由来、多様な外見、そして一様でない行動は、人々の想像力を刺激し、多くの物語や芸術作品のインスピレーションとなっています。キキーモラは、単なる伝説上の存在ではなく、文化的な象徴として、今もなお生き続けていると言えるでしょう。

参考文献

栗原成郎『吸血鬼伝説』（河出書房新社、1995年、ISBN 4-309-47282-6） - 128-131ページの「妖精キキーモラ」の節において、キキーモラに関する伝説や諸特徴の紹介、および夢魔モーラとの関係に関する考察がなされています。

もう一度検索