キシル

キシル（Qishr、アラビア語: قشر）は、イエメンで愛されている伝統的な温かい飲み物です。その主な特徴は、コーヒー豆を覆う外皮であるコーヒーの殻をベースにしている点です。このコーヒーの殻に、ショウガやシナモンなどの香辛料を加えて煮込むことで、独特の風味と温かさを生み出します。

キシルがイエメンで広く飲まれるようになった背景には、その安価さが大きく影響しています。コーヒー豆そのものを使用するよりも、コーヒーの殻を利用する方がコストを抑えられるため、コーヒーの代用品として日常的に親しまれてきました。特に、イエメンの低地地域であるティハーマでは、キシルが日常的な飲み物として浸透しています。

歴史を遡ると、1100年以上前に貿易商が紅海を渡ってコーヒーをアラビア（現在のイエメン）に持ち込んだことが始まりとされています。当初、コーヒーは飲料としてではなく、その果実を発酵させてワインのような飲み物を作っていました。この飲み物がキシルとして知られており、宗教的な儀式の際に用いられていたとされています。コーヒー豆が焙煎されて飲まれるようになる以前から、コーヒーの殻を利用した飲み物として、キシルはイエメンの文化に根付いていたのです。

キシルは、その温かさとスパイスの香りが特徴で、特に寒い時期や体調を崩した際に体を温める飲み物として重宝されています。家庭や地域によってレシピが異なり、様々なバリエーションが存在します。また、キシルは、イエメンの伝統的なおもてなしの象徴でもあり、客人をもてなす際に提供されることもあります。その際には、一度に2つのカップが提供されるという習慣もあります。

キシルは、単なる飲み物としてだけでなく、イエメンの歴史や文化、人々の生活に深く根ざした存在です。コーヒーの殻を再利用するという持続可能性の観点からも、その価値が見直されています。キシルは、コーヒーの歴史を語る上で、欠かすことのできない重要な要素の一つと言えるでしょう。

関連項目

イエメン料理
コーヒーチェリーティー

出典

* Philby, H. St. J. B. (Harry St. John Bridger), 1885-1960. Arabian Highlands. Ithaca: Published for the Middle East Institute, Washington, D.C. [by] Cornell University Press, [1952]. Subjects: Arabian Peninsula—Description and travel. 771 p. : illus., maps (part fold., 1 in pocket). OCLC No.: 01083943. Page 687.

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