キタシロサイ

キタシロサイ：絶滅の淵からの再生への挑戦

キタシロサイ（学名: Ceratotherium simum cottoni）は、シロサイの亜種であり、かつてはアフリカ大陸中央部に広く分布していました。1960年代には約1200頭が生息していましたが、その後、急激に数を減らし、野生では絶滅してしまった悲劇的な動物です。

キタシロサイの危機

キタシロサイが絶滅の危機に瀕した主な原因は、生息地の環境破壊と、角を目的とした密猟でした。1970年代から密猟が深刻化し、個体数は急激に減少。1990年代初頭には1000頭を割り込み、1990年代後半の内戦後には、ほとんど姿を消してしまいました。

そして、2008年、キタシロサイは野生絶滅という悲しい宣告を受けることになります。野生での繁殖が確認されなくなったのです。その後も、わずかに残った個体を保護する試みが続けられましたが、2018年3月には最後のオスである「スーダン」が死亡。これにより、生存するキタシロサイは、スーダンの娘とその孫にあたる2頭のメスのみとなってしまいました。

絶望の中の希望

現在、この2頭のメスはケニアの施設で手厚く保護されています。しかし、母親は高齢のため、自然な妊娠や出産は難しい状況です。種の存続が絶望的な状況の中、科学の力でキタシロサイを救おうとする試みが始まりました。

日本の大阪大学大学院医学系研究科の研究者を中心とした国際チームが、キタシロサイのiPS細胞から卵子や精子の元となる始原生殖細胞様細胞（PGC様細胞）の作成に成功したのです。この画期的な技術は、キタシロサイの繁殖に新たな可能性をもたらしました。

研究チームは、このPGC様細胞を卵子として育成し、冷凍保存されている精子と体外受精させることを目指しています。さらに、ミナミシロサイを代理母として出産させ、キタシロサイの完全絶滅を回避するという壮大な計画を進めています。2024年2月には、体外受精に成功したとの発表もあり、この計画は着実に進んでいます。

今後の展望

キタシロサイの絶滅回避に向けた取り組みは、まだ始まったばかりです。iPS細胞技術を用いた繁殖は、多くの困難を伴います。しかし、研究者たちの熱意と、最新の技術によって、キタシロサイが再び地球上で繁栄する日が来るかもしれません。

私たち人間は、キタシロサイのような絶滅危惧種の現状を深く理解し、環境保護への意識を高める必要があります。また、科学技術の進歩が、失われつつある命を救う可能性を秘めていることも、忘れてはなりません。

キタシロサイの未来は、私たち人間の行動にかかっていると言えるでしょう。

参考文献

* ティム・フラック 『ENDANGERED 絶滅の危機にさらされた生き物たち』青幻舎、2017年。ISBN 978-4-86152-640-4

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