キドニーグリル

BMWキドニーグリル：進化の歴史とデザイン論

BMWを象徴するデザイン要素として知られるキドニーグリル。その特徴的な腎臓型形状は、長年にわたりBMW車のアイデンティティを形成し続けてきました。本稿では、キドニーグリルの歴史、デザインの変遷、そして現代における議論までを詳細に解説します。

起源と初期のデザイン

キドニーグリルの起源は、1930年代初頭まで遡ります。BMWは、コーチビルダーであるイーレ社が製造したBMW 3/15 hpのロードスターに採用されていた腎臓型ラジエーターグリルを、ブランドの特徴的なデザインとして採用しました。1933年発表のBMW 303では、この腎臓型グリルが初めて公式にBMW車に採用されたとされています。チーフデザイナー、フリッツ・フィードラーは空気抵抗低減のため、この形状に設計したと言われています。

初期のキドニーグリルは縦長のデザインが主流でした。1936年のBMW 326ではより細身になり、1950年代のBMW 501/502では横に吸気口が追加されるなど、徐々にデザインに変化が見られました。BMW 507では、幅広で左右に分かれた独自のグリルが採用され、現在のキドニーグリルとは異なるデザインとなっています。

1960年代以降のデザイン進化

1962年のBMW 1500以降、キドニーグリルは様々なモデルに採用され、そのデザインは時代に合わせて修正・縮小が繰り返されました。これは、主要株主であったヘルベルト・クヴァントの強い要望によるものでした。クヴァントは、BMWのブランドアイデンティティとしてキドニーグリルを維持することを強く主張しました。

1970年代には、基本的に縦長のデザインが維持されましたが、BMW M1では、ミッドシップレイアウトによるフロントノーズの形状制限から、非常に小さく、四角形に近い形状のキドニーグリルが採用されました。このM1のキドニーグリルは、BMW史上最小とされ、後のZ1や8シリーズのデザインにも影響を与えています。

横長のキドニーグリルの台頭と多様化

1980年代後半になると、状況は一変します。1986年発表のBMW 7シリーズ（E32）では、初めて明確に横長のキドニーグリルが採用されました。特にV12エンジン搭載モデルでは、下位グレードとの差別化のため、より大きな横長のキドニーグリルが装着されました。この横長のデザインは、その後3シリーズや5シリーズにも採用され、現代BMWデザインの重要なモチーフとなりました。

2010年代に入ると、キドニーグリルには様々な機能が追加されました。2015年のBMW 7シリーズ（G11）では、「アクティブエアストリーム」機能が搭載され、冷却が必要ない状況では電動でグリルを閉じて空気抵抗を低減するようになりました。

近年の大型化とデザイン議論

2010年代後半以降、キドニーグリルは大型化傾向にあります。2018年のBMW 8シリーズやZ4では、横幅が大幅に拡大され、角張った五角形に近い形状になりました。また、3シリーズでは、グリル上辺をボンネットのキャラクターラインにまで伸ばし、水平方向への広がりを強調するデザインが採用されました。

一方、2019年のコンセプト4で発表された、縦長の巨大なキドニーグリルは、往年の名車328や3.0CSへのオマージュとしてデザインされました。この縦長のキドニーグリルは、その後4シリーズやM3、iXにも採用されています。

しかし、近年はキドニーグリルの大型化に対して、一部の自動車愛好家から否定的な意見も出ています。「鼻の穴」と揶揄されるほど、デザインが過激になっているという声も上がっています。

電気自動車におけるキドニーグリルの役割

BMW iシリーズなどの電気自動車では、キドニーグリルは空気を取り入れる必要がないため、ダミーとしてデザイン要素として扱われています。グリルの内部は塞がれており、開口部はありません。これは、ブランドアイデンティティを強調するためのデザイン戦略と言えます。

まとめ

BMWキドニーグリルは、ブランドのアイデンティティを体現する重要なデザイン要素です。その歴史とデザイン変遷は、BMWのデザイン哲学と技術革新を反映しています。今後のBMWのデザインにおいて、キドニーグリルがどのように進化していくのか、注目が集まります。

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