キネカ錦糸町

キネカ錦糸町：知られざる映画文化の灯火

キネカ錦糸町は、かつて東京都墨田区江東橋の楽天地ビル、錦糸町西武内に存在した映画館です。1986年11月5日に開館し、1994年1月末に惜しまれつつ閉館しました。座席数は130席と小規模ながらも、その個性的な上映作品のラインナップで、多くの映画ファンを魅了しました。経営は当時セゾングループ傘下であった西友が行っていました。

ミニシアター時代：多様な映画との出会い

1986年のオープン当初は、一般的なミニシアターとして、様々なジャンルの作品を上映していました。オープニング作品は、ヴェネツィア国際映画祭で監督賞を受賞したカナダ映画『ソナチネ』。セゾングループが製作に関わった作品（シネセゾンの配給作品）や、若い女性層に人気の洋画などを積極的に上映し、独自のカラーを打ち出しました。

ソ連映画専門館時代：異彩を放つ存在へ

1990年4月21日、キネカ錦糸町は日本初のソ連映画専門館として生まれ変わります。これは、当時セゾングループの代表であった堤清二氏の意向が強く反映されたものでした。彼は以前からソ連文化に強い関心を持っており、1984年にはセゾングループとしてソ連文化省と文化交流促進の覚書を交わし、1988年には東京都にソビエト・バレエ・インスティテュートを開校するなど、文化交流に尽力していました。

ソ連映画専門館としてのキネカ錦糸町は、『泉』(ユーリー・マミン監督)を皮切りに、日本ではなかなか目にすることができない貴重なソ連映画を次々と上映しました。『不思議惑星キン・ザ・ザ』のような話題作から、「知られざるソビエト映画特集」や「ソビエト女性映画人週間」といった企画上映まで、そのラインナップは非常にバラエティ豊かでした。専門館時代の2年間で、約80本ものソ連映画が上映されたといいます。また、エイゼンシュテイン・シネクラブ（日本）の月例会会場にもなり、高野悦子、高畑勲、堤清二、山田洋次、淀川長治といった著名人が講演を行ったことも特筆されます。

その後と閉館：文化の灯火の消滅、そして継承

1991年末のソ連崩壊を受け、1992年6月中旬にキネカ錦糸町はソ連映画専門館の看板を下ろしました。しかし、その後もロシアや周辺地域の作品を積極的に上映し、「マールイ・キノ」（ロシア語で「小さな映画館」の意味）という愛称で親しまれました。1994年1月31日、賃貸契約満了により、キネカ錦糸町は閉館。その跡地は錦糸町スカラ座2となりました。

閉館後も、キネカ錦糸町で培われたロシア・ソビエト映画上映の活動は、国際シネマ・ライブラリーなどを通じて継続されました。シネ・ヴィヴァン・六本木や岩波ホールなどでの上映企画、そしてキネカ大森での「イベロアメリカ・シネフェスタ」開催などが、その灯を絶やさぬための努力の証と言えるでしょう。

キネカ錦糸町は、決して大きな映画館ではありませんでしたが、その独自の路線と上映作品を通じて、日本の映画文化に大きな足跡を残しました。今もなお、多くの映画ファンにとって忘れがたい存在であり続けています。

主な上映作品

ソナチネ(1986)
グレイフォックス(1986)
エル・ニド(1987)
カルメン(1987)
フルカウント(1987)
[カラスの飼育]
悲しみのヴァイオリン(1987)
ルシア(1987)
天国の晩餐(1988)
アメリカン・ウェイ(1988)
アトランティック・シティ(1989)
わが父/パードレ・ヌエストロ(1989)
コミッサール(1990)
転校生レナ(1990)
ブハラ大公の秘密の旅(1990)
詩人フラーギ(1990)
ハレバとゴーギ(1990)
不思議惑星キン・ザ・ザ(1991)
[うしろの正面だあれ]
アシクケリブ(1991)
ざくろの色(1991)
スラム砦の伝説(1991)
少年たち『カラマーゾフの兄弟』より(1991)
カプチーノ街から来た人(1991)
静かなるドン(1992)
人間の運命(1992)
ウルガ(1992)
白い豹の影(1992)
諜報員(1992)
青い青い海(1992)
国境の町(1992)
シークレット・ウェディング/待ちすぎた恋人たち(1993)
戦争と平和(1993)

主なイベント

ソビエト映画祭'90(1990)
新ラテンアメリカ映画祭'90(1990)
ソビエト女性映画人週間'91(1991)
* 映画100年にむけてー エイゼンシュテイン記念国際シンポジウム(1993)

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