キバシリ

キバシリ

スズメ目キバシリ科に分類される鳥類の一種で、木の幹に垂直に張り付き、幹に沿って独特な動きで登る姿から、「木走り」を意味するキバシリの名が冠されました。学名は Certhia familiaris とされています。

分布

キバシリは、ユーラシア大陸から北アメリカ大陸にかけての温帯および亜寒帯地域に広く分布しています。多くの地域では一年を通して同じ場所に留まる留鳥として知られていますが、北方で繁殖した個体の一部は、冬季になるとより温暖な南方へ移動する性質があります。なお、北アメリカに生息する亜種については、独立した種（アメリカキバシリ Certhia americana）として扱う説が有力視されています。

日本国内においては、北海道、本州、四国、そして九州の亜高山帯に広がる針葉樹林を主な生息環境として、留鳥として生活しています。ただし、繁殖に適した場所はやや限られており、国内全体で見ると個体数は決して多くないと考えられています。冬季には、生息地よりも標高が低い地域へと移動して越冬する姿が見られます。北海道では、亜高山帯だけでなく、平地の林で見られる個体も存在します。

形態

成鳥の全長はおよそ11cmから15.5cm程度で、一般的にスズメよりも小さく、細身の体つきをしています。体の背面、翼、そして尾にかけては、褐色を基調とした羽色に白いまだらが細かく散りばめられており、これは木の樹皮に酷似した見事な保護色として機能しています。目の上には明瞭な白い眉斑があり、その下を横切るように褐色の過眼線が入っています。腹面は全体的に白色をしています。尾は比較的長く、硬い羽根が先端に向かって尖っており、これは木の幹を登る際に体を支える役割を果たします。くちばしは細長く、緩やかに下方へ湾曲しており、樹皮の隙間に隠れた小さな昆虫やクモを探し出すのに適した形状です。雌雄の間での羽色の違いはほとんどなく、外見から性別を判別することは困難です。

生態

低山帯から亜高山帯にかけての針葉樹林や落葉広葉樹林を主な生息環境としています。食性の大部分は、木の幹や樹皮の隙間に生息する小さな昆虫類やクモで占められています。採食行動はキバシリの最も特徴的な行動の一つです。木の幹に垂直に止まると、硬い尾羽根を幹に押し当てて体を支えながら、まるで這うかのように幹をらせん状に登っていきます。この独特の動きで幹全体を探り、餌となる虫を見つけ出して捕食します。警戒が必要な状況では、体の羽色を活かして木の幹にぴったりと寄り添い、ほとんど動かずに静止することで、外敵から身を隠します。

繁殖期には、木の幹の割れ目や樹洞などを利用して巣を作ります。巣材としては、朽ちた木の破片などを集め、クモの糸を用いてそれらを繋ぎ合わせ、椀状に形成します。産卵期は通常3月から5月にかけてで、一度に4個から5個の卵を産みます。抱卵期間はおよそ14日から15日間で、この役割は主に雌が行います。雛は孵化後、約14日から16日間で巣立ちを迎えます。

繁殖期以外の期間も、単独で行動することが多いですが、つがいや家族単位で行動する姿も見られます。また、シジュウカラなど他のカラ類の群れに混じって行動する様子が観察されることもあります。

亜種

キバシリは非常に多くの亜種に分類されており、その数は世界全体で25亜種にも及ぶとされています。このうち、日本列島に分布しているのは以下の2亜種です。

キタキバシリ (Certhia familiaris daurica)：主に北海道に分布しています。
キバシリ (Certhia familiaris japonica)：本州、四国、そして九州に分布しています。

これらの2亜種は外見上ほとんど差がなく、野外で観察する際に両者を区別することは非常に困難とされています。

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