キマイラ (ギュスターヴ・モロー)

ギュスターヴ・モローの『キマイラ』

『キマイラ』（仏: La Chimère）は、1867年にフランスの象徴主義画家ギュスターヴ・モローによって制作された油彩画です。この作品は、現在アメリカ合衆国のマサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学のフォッグ美術館に所蔵されています。また、同年に制作されたヴァリアントや水彩画も存在し、後者はモロー美術館に収められています。

主題について

本作の主題となっているキマイラは、ギリシャ神話に登場する怪物で、ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つとされています。この神話において、キマイラは英雄ベレロポーンによって退治されました。また、フランス語における「シメール」（Chimère）は、「幻想」や「夢」を意味する言葉でもあります。

作品の内容

モローの描いた『キマイラ』では、怪物が翼を広げて空へ飛び立とうとしていますが、その姿は従来のキマイラとは異なり、男の顔と上半身、馬の身体、そして翼を持つ形状が特徴的です。さらに、怪物の首には美しい女性が抱きつき、彼女もともに飛び立とうとしている様子が描かれています。右下には一羽の鳥が飛び交い、全体の構成に変化を与えています。

この作品の初期の構想は、1856年に制作された素描にまで遡ります。この素描では怪物の翼が後方に広げられていますが、基本的な図像はすでに完成されており、その後も大きな変化は見られません。また、怪物のポーズはモーロ家に伝わる1660年のオウィディウスの『変身物語』の挿絵からインスパイアを受けたとされています。

解釈と象徴

モローは、この怪物の描写を通じて、ギリシャ神話と幻想の両方を融合させていると思われます。彼の作品において、半獣半人の生き物はしばしば肉体的な官能性と精神的な側面への対立を象徴しています。このような視点から見ると、抱きついている女性は破滅的な欲望に身を任せ、神話上の略奪者によって誘拐される女性たちを彷彿とさせます。

モローの晩年、彼はこのテーマの拡張として『キマイラたち』（Les Chimères）という大作に取り組みましたが、そこには女性に対する深い考察が盛り込まれています。モローの友人であったアリ・ルナンは、本作の怪物を単なる負の存在ではなく、より高貴な存在として捉えており、アンドロギュノス的な美の側面を評価しました。彼の見解は、モローが半獣のモチーフを常に否定的に捉えていた訳ではないことを示唆しています。

来歴とヴァリアント

モローがこの作品を1867年に売却した後、さまざまな所有者を経て1906年にウィリー・ブルメンタールの手に渡りました。1935年にはグレンヴィル・L・ウィンスロップがこの作品を取得し、1943年に彼の死後、フォッグ美術館に遺贈されました。また、複数のヴァリアントが存在し、その中でも1867年に制作された作品が著名です。これらのヴァリアントは、本作のより早い段階で制作されたバリエーションとして位置づけられています。

まとめ

『キマイラ』は単なる絵画作品に留まらず、ギリシャ神話とそれに付随する深い象徴性を持つ一作です。モローは当時の絵画界において一際目立つ存在であり、自身の独自のスタイルを確立しました。この作品は、彼の心の内や社会に対する考察が反映された重要な案となっているといえるでしょう。

もう一度検索