キム・ダロック

キム・ダロック氏（1954年4月30日生まれ）は、イギリスの元外交官であり、現在は国会議員としても活動しています。特に駐米大使在任中の出来事が広く知られています。

ダロック氏は長年外交に携わり、国家安全保障担当首相補佐官を経て、2016年1月には在アメリカ合衆国イギリス大使としてワシントンD.C.に着任しました。これは、主要な同盟国であるアメリカとの関係を維持・強化する上で極めて重要なポストでした。

しかし、彼のキャリアに重大な転機が訪れたのは2019年のことです。同年、ドナルド・トランプ大統領がイギリスを訪問した直後、イギリスのタブロイド紙であるデイリー・メールがダロック氏が本国へ送ったとされる複数の外交電文の内容をスクープしました。これらの電文は、2017年以降に作成されたもので、その中にはトランプ大統領や彼の政権に対するダロック氏の評価が含まれていました。具体的には、大統領を「無能（incompetent）」や「適任でない（inept）」などと表現し、その行政運営や外交政策について否定的な見方が示されていました。

この報道は、米英関係に波紋を広げました。トランプ大統領は、電文の内容を直接確認していないと前置きしつつも、ダロック氏に対して批判的な見解を示しました。「我々はあの人物をあまり好ましく思っていないし、イギリスにとってさほど役立っているとも思わない」と述べ、今回の発言は理解できるとも付け加えました。

電文漏洩とトランプ大統領の反応を受け、ダロック氏の立場は困難なものとなりました。当初、イギリス政府はダロック氏を擁護する姿勢を見せました。当時のテリーザ・メイ首相の報道官は、2019年7月8日にダロック大使が首相の全面的な支持を受けていると明言し、大使として留任させる方針であることを表明しました。さらに、次期首相候補の一人であったジェレミー・ハント外相も、自身が首相となった場合でも駐米大使を交代させない意向を示していました。イギリス政府としては、外交官が本国に正直な分析を送ることは当然であり、その機密性が守られるべきだという立場でした。

しかし、状況は好転しませんでした。アメリカ側からの反発や、大使としての信頼性に対する疑問の声が高まる中で、ダロック氏は職務継続が困難であると判断せざるを得なくなりました。そして、2019年7月10日、彼は声明を発表し、その中で「現在の状況下では、私の職務を継続することは不可能であると考える」と述べ、同年12月に予定されていた定年退職を待たず、任期途中で辞任することを表明しました。この辞任は、外交官が本国へ送るべき正直な報告と、駐在国との良好な関係維持という二律背反の難しさを示す出来事として注目されました。

駐米大使を辞任した後、ダロック氏は新たなキャリアを歩み始めます。2019年9月10日、前首相であるテリーザ・メイ氏が退任時に推薦した叙爵者候補リストに基づいて叙爵され、これにより貴族院議員に就任しました。これは、長年の国家への貢献が認められたものと解釈されています。

キム・ダロック氏の一連の出来事は、現代外交における機密情報の取り扱いの脆弱性、そして同盟国間の微妙な力学を示す事例となりました。電文漏洩という異例の形で大使のキャリアは幕を閉じましたが、その後は立法府の一員としてイギリスの政治に関わり続けています。彼の経歴は、伝統的な外交官の道から、予期せぬ形で大きな騒動に関与し、新たな政治的役割を得るに至る複雑な道のりをたどっています。

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