キム・ヘジャ

韓国芸能界において、長きにわたり第一線で活躍し続ける女優、キム・ヘジャ（김혜자, 金惠子）は、1941年 10月25日、ソウル特別市に生まれました。本貫は金寧金氏。公務員であった父親のもと、二人の姉妹の長女として生まれます。父は1950年代に社会部次官を務めた経験を持ち、比較的恵まれた家庭環境で育ちました。

中学校2年生の頃から女優を志すようになり、その夢を追いました。京畿女子高等学校に進学後は演劇部に所属して活動を続け、表現の世界への情熱を燃やします。高校卒業後、梨花女子大学校生活美術学科へ進学するも、女優への道を本格的に歩むため後に中退を決断しました。大学在学中の1961年、KBS公開採用タレント第1期として選ばれ、ついに芸能界に足を踏み入れたのです。

デビュー後はテレビドラマと舞台の両方で精力的に活動を展開し、その才能を開花させていきます。1982年には映画『晩秋』でスクリーンデビューを飾り、活躍の場を広げました。しかし、彼女の存在を不動のものにしたのは、何と言っても長期にわたるテレビドラマへの出演でしょう。特に、1980年から2002年まで20年以上にわたり放送されたMBCの国民的ドラマ『田園日記』で演じた心優しい母親役が視聴者の絶大な支持を得ました。この役柄を通じて、彼女は韓国中の人々にとって「母親」の象徴となり、いつしか「国民の母」という愛称で親しまれるようになったのです。この愛称は、単なる役柄名を超え、彼女の温かい人柄や演技への深い信頼を表す言葉となりました。

女優業と並行して、CMモデルとしても長く愛されました。1995年には、第一製糖（現CJグループ）の専属モデルとして長期間にわたり活動したことが評価され、ギネス記録に登録されるというユニークな実績も持っています。

キム・ヘジャのキャリアは、数々の栄誉に彩られています。韓国の三大放送局の演技大賞をはじめ、権威ある百想芸術大賞では、テレビ部門の女性最優秀演技賞や大賞を何度も受賞しています。特に、1970年代後半から80年代にかけて、連続して百想芸術大賞を受賞するなど、その実力は早くから高く評価されていました。また、1983年には映画『晩秋』でマニラ国際映画祭最優秀女優主演賞を獲得するなど、国際的な舞台でも認められています。

21世紀に入ってからも、彼女の輝きは衰えません。2008年にはKBS演技大賞、2009年には百想芸術大賞テレビ部門で大賞を受賞するなど、円熟期に入ってもなお最高の評価を得ています。さらに、2009年のポン・ジュノ監督作品『母なる証明』では、息子を深く愛するあまり暴走する母親という難役を見事に演じきり、国内外で圧倒的な賛辞を受けました。この作品によって、アジア太平洋映画賞、釜日映画賞、釜山映画評論家協会賞、韓国映画評論家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、アジア・フィルム・アワードなど、実に多くの映画賞で主演女優賞を受賞し、その演技力は世界中に知られることとなりました。近年では、2019年にドラマ『まぶしくて ―私たちの輝く時間―』での演技が再び高く評価され、百想芸術大賞テレビ部門の大賞に輝くなど、その影響力は今なお健在です。

私生活では、繊維業界で実業家として成功した男性と結婚し、一男一女をもうけましたが、夫は1998年に肝臓癌で他界しました。以降は再婚せず独身を貫いています。子供たちは独立しており、特に長男は貿易や食品業界で事業を展開しており、自身がプロデュースする「キム・ヘジャ弁当」の管理なども手掛けています。

女優として半世紀以上にわたり第一線で活躍し、韓国の視聴者や観客に深く愛され続けるキム・ヘジャ。その比類なき演技力と、役柄を超えた温かい人間性は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。まさに「国民の母」として、韓国芸能界の歴史にその名を深く刻む存在と言えるでしょう。

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