キャリーラボ

株式会社キャリーラボ：日本のパソコン黎明期を彩ったソフトハウスの興亡

熊本県熊本市を拠点としていた株式会社キャリーラボは、1980年代、日本のパソコンソフト業界において独特の存在感を放っていたソフトハウスです。その歴史は、1981年5月、中村博行氏によって設立された有限会社キャリーラボに遡ります。当初はマイコン販売を主軸としていましたが、熊本大学マイコンクラブの学生が開発したソフトウェアの販売が軌道に乗ると、事業の中心をソフトウェアへと移行。1984年には株式会社に改組し、本格的なソフトハウスとして歩み始めました。

キャリー七人衆と独自開発言語BASE

キャリーラボの躍進を支えたのは、佐々木哲哉、山本耕司、平野洋一郎、長谷川浩、高橋順一、由紀裕子、望月成の7名からなる開発チーム、通称「キャリー七人衆」でした。彼らが開発した独自のプログラミング言語『BASE』は、BASICライクなアセンブラで、マシン語による高速で効率的なソフトウェア開発を可能にしました。このBASEはZ80、6809、そして8086用（未公開）と、複数のCPUに対応するバージョンが開発され、キャリーラボのソフトウェア開発基盤として重要な役割を果たしました。

BASEを用いて開発された『WICS』もまた、キャリーラボの高度な技術力を示すソフトウェアの一つです。これらの技術力を背景に、キャリーラボは数々の画期的なソフトウェアを世に送り出しました。

3Dゲームの先駆けと革新的なビジネスソフト

キャリーラボは、ゲームソフトにおいても大きな成功を収めました。MZ-2000用ワイヤーフレーム3Dゲーム『HIROTON WARS』は、その当時としては画期的なグラフィックで話題となり、続編の『JELDA』シリーズへと繋がります。『JELDA II』は特に人気を博し、後の国産PCゲームの3D表現に大きな影響を与えました。『Flight in Hawaii』では、国産PCゲームで初めて3次元ポリゴンによるフライトシミュレーションを実現しています。

また、音源機能の貧弱な機種においても、Beepやパルス出力音の周波数を高速に切り替えることで3音の同時発音を実現するなど、ハードウェアの制約を技術力で克服する手腕も見せています。

ビジネスソフト分野では、日本語ワープロソフト『JET』シリーズが有名です。MZ-80B用の『JET-1000』から始まり、PC-8801用の『JET-8801A』は大ヒットを記録。高価格帯にも関わらず、50週連続でソフトバンク週間ランキングビジネスソフト部門第1位を獲得するなど、その高い評価は揺るぎないものでした。『JETターミナル』は、当時主流だった半角英数カナのみの通信環境において、全角かな漢字をサポートした画期的な通信ソフトとして、PC-8801、PC-9801ユーザーに広く普及しました。

アーケードゲームの移植においても、高い再現性で知られていました。タイトーの『ギャプラス』では、モニターを縦置きにすることでアーケード版の雰囲気を徹底的に再現したことが話題となりました。

衰退とその後

国内有数のソフトハウスへと成長したキャリーラボでしたが、シャープMZシリーズに注力した結果、NEC PC-8801/PC-9801シリーズへの参入が遅れたことが、後に大きな足枷となりました。さらに、開発陣の大量退社や、訴訟問題なども重なり、1990年には倒産という結末を迎えます。

しかし、キャリーラボの技術者たちは、その後もそれぞれの道を歩み、アルファ・システム、エルステッド、ペガサスソフトなどの企業を設立。日本のゲーム業界に貢献し続けています。

キャリーラボが残したもの

株式会社キャリーラボは、短いながらも輝かしい歴史を持つソフトハウスでした。独自の開発言語BASE、革新的なゲームソフト、そして高機能なビジネスソフトなど、数々のソフトウェアを通じて、日本のパソコン文化に大きな足跡を残しました。その功績は、日本のパソコン黎明期を知る者にとって、今もなお記憶に鮮やかに残っています。彼らの開発したソフトウェアは、レトロゲームファンや、当時のパソコン文化に興味を持つ人々にとって、貴重な遺産として、現在も語り継がれています。

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