キューピッド (クラナッハの絵画)

[ルーカス・クラナッハ]によって16世紀に描かれた『キューピッド』は、愛の神を描いた油彩作品です。この作品は、もともと「ヴィーナスとキューピッド」という主題の一部であったと考えられています。クラナッハは、この主題で複数のヴァージョンを制作しており、本作はそのうちの一つです。現在、ウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

作品の背景

キューピッドは、古代ギリシャではエロスと呼ばれ、愛の神として崇拝されていました。しかし、ヘレニズム期以降、愛欲の神としてその姿は矮小化され、青年から少年、そして幼児へと変貌していきました。キューピッドの矢に射られた者は、恋心に翻弄されるとされています。

クラナッハは、1509年にアルプス以北で初めてヴィーナスの等身大裸体像を描いて以来、数十年にわたりこの主題を繰り返し描きました。多くの場合、キューピッドは活発な姿で描かれていますが、本作では比較的おとなしく、エルミタージュ美術館の所蔵作を彷彿とさせます。

作品の詳細

本作のキューピッドは、弓矢を構えながら鑑賞者の方を振り返っています。羽の描写は非常に丁寧で、生き生きとした印象を与えます。画面の右端には、裸体のヴィーナスの脚の一部がわずかに見えています。この絵画は本来、ヴィーナスとキューピッドが一緒に描かれた作品の一部であったことが示唆されています。

この作品の完全な姿は、17世紀に制作されたヴァイマールの複製画によって知ることができます。その複製画では、ヴィーナスはチョーカーのような首飾りと薄いヴェールを身につけ、鑑賞者を見つめています。

ヴァイマールの複製画が正確な模写であるならば、本作には「キューピッドの放つ矢に用心せよ」という道徳的な警句が含まれていたと考えられます。この警句は、キューピッドの愛の矢がもたらす危険性を示唆しています。

同主題作品

クラナッハは、「ヴィーナスとキューピッド」をテーマにした作品を複数制作しており、それぞれに異なる魅力があります。

これらの作品を通して、クラナッハは愛と美、そして人間の感情の複雑さを表現しようとしたと考えられます。

まとめ

ルーカス・クラナッハの『キューピッド』は、ルネサンス期の芸術における愛の表現を探求する上で重要な作品です。神話的な背景と画家の独特な表現が組み合わさり、鑑賞者に深い印象を与えます。この作品を通して、クラナッハの芸術的才能と、当時の社会における愛の概念を垣間見ることができます。

もう一度検索