キューピッドとプシュケ (ダヴィッド)

キューピッドとプシュケ

『キューピッドとプシュケ』（仏: Cupidon et Psyché, 英: Cupid and Psyche）は、フランスの新古典主義の画家ジャック＝ルイ・ダヴィッドによって1788年に制作された作品です。この絵画は、エロス（ローマ神話のキューピッド）とプシュケの伝説を題材とし、アプレイウスの『黄金の驢馬』に基づく神話を描いています。ダヴィッドはブリュッセルに亡命している間、彼のパトロンであるイタリアの収集家ジョヴァンニ・バティスタ・ソンマリーヴァのためにこの作品を完成させました。

物語の背景

物語の中で、美貌を持つ王女プシュケは愛と美の女神ヴィーナスに崇拝されます。ヴィーナスはプシュケの美しさに嫉妬し、彼女に罰を与えるために息子のキューピッドを使います。一方、プシュケは結婚相手を見つけられず、両親は神託を求めてプシュケを怪物に生贄として差し出さねばならなくなります。しかし、彼女は風に運ばれてキューピッドの住む宮殿に導かれ、彼との甘美な生活を始めます。秘密の結婚生活が続く中、プシュケは夫の正体を知りたいと願い、彼の姿を明かす燈火を持ち込むものの、彼を傷つけてしまいます。その後、プシュケはキューピッドを探し回り、様々な試練を経て二人は再会を果たします。

制作過程

ダヴィッドは、フランスの政治的な変革の中で亡命を余儀なくされました。彼は国王ルイ16世の死刑に票を投じたため、ナポレオン失脚後、パリを離れaloしなければなりませんでした。ブリュッセルでソンマリーヴァのために絵画を完成させた『キューピッドとプシュケ』は、彼の亡命中に制作された最初の重要な作品でした。

作品の特徴

『キューピッドとプシュケ』では、ダヴィッドはキューピッドがプシュケの元を去っていく瞬間を捉えています。描かれたキューピッドは、笑みを浮かべ、若さの喜びを伝えています。彼の傍らには、ベッドに立てかけられた弓と矢筒があります。プシュケは、彼に寄り添いながら眠っており、彼女の上には小さな白い蝶が舞っています。この作品の背景は、キューピッドの明るさと、プシュケの状況との対照を生み出すような装飾的な要素によって包まれています。

画面は、暗い色調の巨大な天蓋によって覆われ、プシュケの気合いの浅さと、二人の運命を暗示しています。美術史家は、ダヴィッドがアプレイウスの寓意を再解釈し、キューピッドとプシュケの状況を視覚的に象徴化しようとしたことを指摘しています。

分析と評価

この作品は、神話の伝統的な描写から逸脱した点が大きな特徴です。特にキューピッドの写実的な描写が際立っており、従来の美的基準に反するリアルさが物議を醸しました。他のアーティストたちの描く理想化された愛の表現とは異なり、ダヴィッドの作品にはダイナミックな情感が盛り込まれており、それが視覚的な緊張感を引き出しています。

キューピッドとプシュケの身体の対比や、プシュケが無防備であることが強調され、作品全体に微妙な緊張感を持たせています。視覚的には賞賛される一方で、当時の鑑賞者にとっては新たなスタイルが受け入れられにくいものでした。

その後の歴史

この作品は完成後、ブリュッセルとパリで展示されましたが、パリでの評判は期待されたほど良くはありませんでした。ダヴィッドはこの作品をパリに送る際に、友人や弟子から意見を聞くことにし、一部の批評家は構図や色彩の美しさを称賛しましたが、全体的には悪評も多く、自身のスタイルの変化に対する批判が目立ちました。現在、この絵画はクリーブランド美術館に所蔵され、ダヴィッドの新古典主義的な試みを象徴する名作として評価されています。

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