キラ (民族衣装)

キラ：ブータン女性を彩る伝統衣装

ブータン王国で着用されている民族衣装のうち、女性が身につけるものが「キラ」と呼ばれます。これは男性の民族衣装である「ゴ」と対をなす存在です。

起源は隣国インドの伝統衣装「サリー」に影響を受けているとされますが、単に模倣したものではなく、ブータンの風土と文化の中で独自の進化を遂げました。一枚の布を体に複雑に巻き付けて、まるでワンピースのような形状にして着用する形式です。その独特な着装法や、ブータンの特別な環境への適応能力から、衣服文化学の分野では非常に興味深い、特異な存在として位置づけられています。

特徴と着用方法

キラの本体となるのは、「ティマ」と呼ばれる厚手の一枚布です。この布は、長さ約2.5メートル、丈約1.4メートルの大きさがあり、特にブータン中部から東部にかけての地域では、幅45センチメートル程度の鮮やかなブロケード（縫取織）が家庭で手織りされることもあります。厚手の生地が用いられるのは、ブータンの気候に適応するための一つの特徴です。

キラを着付ける際には、まず下着としてスリップ（「グツム」）を着用します。その上にティマを体に巻き付けていきます。巻き方は非常に特徴的で、左肩から始め、右脇、再び左肩、右肩、左脇を経て、最後に右肩へと布を通していきます。この複雑な手順を経て体にフィットさせた後、両肩の部分を「コマ」と呼ばれる一対のブローチでしっかりと留めます。さらに、腰には「ケラ」と呼ばれる細い腰帯を締めて、着崩れを防ぎ、全体のシルエットを整えます。

キラ本体だけでは両腕が露出してしまうため、これを覆うために、下に長袖のブラウス（「ケンジャ」）を着用したり、上から長袖の上着（「テュゴ」）を羽織ることも一般的です。

また、キラには「ラチュー」と呼ばれる肩掛けを合わせることがあります。これは男性のゴに合わせる「カムニ」に相当する装飾でありながら、実用性も兼ね備えています。例えば、簡単な荷物を入れておぶい紐のように使ったり、財布代わりにするなど、日常生活の中で多目的に利用されます。

環境への適応

ブータン王国はその国土の大部分が、冷涼な山岳地帯によって占められています。キラの基本的な構造は、インドの文化的影響を受けているため、構造としては熱帯地方でよく見られる通気性の良い巻衣型に分類されます。

しかし、インド亜大陸や東南アジアで見られる同系統の民族衣装が、温暖湿潤な気候において通気性に優れ、着脱が簡単な衣装として機能しているのに対し、ブータンのキラは全く異なる環境への適応を見せています。前述したように、キラは目の詰まった厚手の織物で作られており、その複雑な着付けによって布が何重にも体に巻き付く構造となります。この厚い多層構造は、ブータンの山地特有の強い風を効果的に防ぎ、体から熱が逃げるのを抑え、体を暖かく保つという、冷涼な気候で生活するための重要な機能を満たしています。

このように、キラは起源となった衣装の構造を保ちつつも、ブータンの厳しい自然環境に適合するために素材や着装法を独自に進化させた、機能性と美しさを兼ね備えた伝統衣装と言えます。それは単なる衣服ではなく、ブータンの文化、そして山岳地帯での暮らしと深く結びついた生活の知恵の結晶なのです。

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