キリストの哀悼 (コレッジョ)

コレッジョの傑作『キリストの哀悼』

『キリストの哀悼』（伊: Compianto sul Cristo morto, 英: Lamentation of Christ）は、イタリア・ルネサンス期の画家コレッジョが、1524年頃に制作した油彩画です。パルマのサン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂のデル・ボーノ家礼拝堂のために、対作品である『四聖人の殉教』とともに制作されました。現在はパルマ国立美術館に所蔵されています。

制作の背景

作品の発注主は、パルマの貴族でローマ教皇パウルス3世の告解者であったプラシド・デル・ボーノです。コレッジョがサン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂のクーポラ天井画『パトモスの聖ヨハネの幻視』を完成させた頃に、その成功をきっかけとして依頼されたと考えられています。デル・ボーノ礼拝堂の左右の壁を飾るために、『四聖人の殉教』と対になるように制作されました。

作品の特徴

この作品では、磔刑に処された後、十字架から降ろされたキリストの遺体と対面する人々が描かれています。右からの光に照らされて白く輝くキリストの遺体は、聖母マリアの膝と地面に力なく投げ出されています。半開きになった口、白目をむいた双眸、そして釘で傷ついた硬直した指が、キリストの苦しみを物語っています。

聖母マリアはショックで気を失い、福音記者聖ヨハネとクロパの妻マリアが彼女を支えています。足元ではマグダラのマリアが深い悲しみをあらわにしています。両手を組み、乱れた髪、歪んだ表情で、感情を必死に抑えようとする彼女の姿が印象的です。背景には、遺体を降ろし終えたニコデモが梯子を下りる様子が描かれています。

コレッジョは、この主題における一般的な表現とは異なり、キリストの遺体が十字架から降ろされる場面や、香油を塗られた遺体の前で祈る場面ではなく、遺体と対面した人々の最初の感情の動きを描いています。聖母が失神する姿は、マンテーニャの『磔刑』やラファエロの『キリストの埋葬』にも見られますが、聖母とキリストの顔の近さと上下の対称性は、この作品独特のものであり、母と子の絆と哀れみの感情を強調しています。荒廃した風景は、殺伐とした情景と相まって、悲しみをより際立たせています。

また、この作品は、対作品である『四聖人の殉教』とともに、登場人物が画面内に収まりきらないような構図で描かれています。これは、祭壇画特有の制約から、人物たちに焦点を当てるために、舞台袖をカットして、まるでズームアップしたかのような映像的手法を用いたためと考えられます。マグダラのマリアが左右の対称性を崩していますが、コレッジョ特有の画面を斜めに横切る対角線上に人物を配置する構図は、礼拝堂に入った人の斜めの視線からも絵が見えるようにという遠近法的な配慮によるものです。

人物表現には、当時のエミリア地方で制作されていたテラコッタ製の悲嘆者像の影響が見られます。これらの彫像は、表情や身振りなど、厳密な観察に基づいて制作されており、コレッジョはこれらの彫像から、感情が表情や身振りに与える効果を学び、感情表現の新しい方法を生み出しました。

作品の影響

『キリストの哀悼』は、反宗教改革期のボローニャやロンバルディアの絵画、そして17世紀のリアリズム絵画に大きな影響を与え、バロック絵画の先駆けとなりました。特に、マグダラのマリアは多くの芸術家を魅了し、セスペデスは彼女の姿に、古代ギリシアの画家ティマンテスの『イピゲネイアの犠牲』を連想させる痛みの表現を見出しました。また、多くのエングレーヴィングが制作されたり、模写されたりもしました。

多くの芸術家がこの作品に影響を受けており、スキピオーネ・パルゾーネの『墓のマグダラのマリア』、ルイス・フィンソンの『マグダラのマリアの法悦』、ピエトロ・ダサロの『マグダラのマリア』などが、この作品のマグダラのマリアに触発されたと考えられています。

作品の来歴

『キリストの哀悼』は、デル・ボーノ礼拝堂の右側の壁に設置され、対となる『四聖人の殉教』と向かい合っていました。1796年にナポレオン軍によって略奪されパリに運ばれましたが、1816年に返還され、現在はパルマ国立美術館に収蔵されています。

コレッジョの傑作である『キリストの哀悼』は、悲劇的な場面を、感情豊かに、そしてダイナミックに描いた作品であり、その影響は後世の多くの芸術家たちに及んでいます。

もう一度検索