四聖人

『四聖人』として知られるこの祭壇画は、イタリアのルネサンス期に活躍した画家コレッジョが1515年頃に制作した油彩作品です。描かれているのは、キリスト教における4人の重要な聖人、聖ペテロ、聖マルタ、マグダラのマリア、聖レオナルドです。この作品はコレッジョの初期における最も重要な作品の一つとして位置づけられており、現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。

主題

この作品に描かれている聖人たちは、それぞれ独自の物語と象徴的な意味を持っています。

聖ペテロ：もともと漁師であった聖ペテロは、キリストの最初の使徒であり、最も親しい人物の一人でした。彼は「マタイによる福音書」でキリストから教会の基礎となる人物として選ばれ、「天国の鍵」を授けられたとされています。聖ペテロはキリストの死後、使徒たちを率いて布教活動を行い、ローマで最初のキリスト教団を設立しました。しかし、紀元64年にネロ帝の命によって磔刑に処せられました。
聖マルタ：聖マルタは、聖ラザロとマグダラのマリアの姉妹です。『黄金伝説』によれば、キリストの死後、聖マルタは南フランスに渡り、人を食らうドラゴン「タラスク」を退治したとされています。彼女はタラスクを聖水で従順にし、町に連れて行った後、人々によって退治されたと伝えられています。
マグダラのマリア：マグダラのマリアは、聖マルタの妹であるマリアと同一視されることもあります。彼女はキリストによって7つの悪霊を追い払ってもらい、キリストの磔刑を見届け、復活を目撃したとされています。
聖レオナルドゥス：聖レオナルドゥスは6世紀頃の聖人で、フランク王国のクローヴィス1世に仕え、王にとりなして囚人を保護したと伝えられています。また、リモージュ近郊のノブラックに修道院を創建したとされています。

制作経緯

この祭壇画は、コレッジョの故郷であるコッレッジョの後援者、メルヒオール・ファッシの依頼によって制作されました。1690年までに、サンタ・マリア・デッラ・ミゼリコルディア教会のファッシ家礼拝堂の祭壇に設置されました。ファッシ家は、コレッジョの他の作品を依頼したムナーリ家と親戚関係にありました。

しかし、この作品が礼拝堂に設置されるまでには紆余曲折がありました。ファッシは、3つの遺言書を作成し、その中でサン・クイリヌス大聖堂に全財産を遺贈し、新たな礼拝堂を建設して、同じ聖人を描いた祭壇画を発注する意向を示しました。当初、本作品は遺言書で計画された祭壇画と考えられていましたが、様式的な特徴から、制作年代が遺言書作成以前であることが判明しました。ファッシは最終的に遺言書の計画を諦め、すでにあった一族の礼拝堂に埋葬されることを決めました。そのため、本作品はファッシが遺言書作成以前にコレッジョに発注し、礼拝堂に設置されたと考えられています。

作品

作品では、柔らかな光に照らされた暗い森を背景に、4人の聖人が立っています。彼らは皆、思索にふけっているように見えます。それぞれの聖人は、伝統的なアトリビュート（象徴物）を持っています。

聖ペテロは、右手に金と銀の天国の鍵を持ち、自身の名前を暗示する石の上に右足を置いています。この石は、「マタイによる福音書」におけるキリストの言葉、「この岩の上にわたしの教会を建てよう」を象徴しています。
マグダラのマリアは、微笑みながら金製の軟膏壺を持っています。
聖レオナルドは、フード付きのローブを着て、囚人を解放したエピソードを象徴する金属の足枷を持っています。
特に注目すべきは聖マルタです。彼女はドラゴンの首に帯を結びつけ、従えている姿で描かれています。これは彼女がドラゴンを退治したという伝説を反映しています。背景の森も、聖マルタが森に住んだという伝説に基づいています。

これらの聖人はファッシによって選ばれ、ファッシ家にとって重要な意味を持っていたと考えられています。聖マルタとマグダラのマリアは中央で対をなす一方、聖ペテロと聖レオナルドは両側で不均等な対を形成しています。聖レオナルドが描かれることは西洋美術では稀ですが、本作では聖ペテロと対をなすことで、自然な配置となっています。

聖ペテロと聖マルタはうつむいているのに対し、聖レオナルドは天を見上げており、マグダラのマリアだけが鑑賞者を見つめています。マグダラのマリアの謎めいた笑みは、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』に触発されたと考えられています。

構図上のインスピレーションとしては、ラファエロの祭壇画『聖チェチリアの法悦』が指摘されていますが、否定的な意見もあります。本作の構成は、コレッジョの他の作品にも前例があり、正面に展開された構図は、凹型の奥行き、身振りの多様性、豊富な細部によって活気づけられています。

また、聖ペテロは、コレッジョの別の作品『聖カタリナの神秘の結婚』の聖ヨセフと同じモデルである可能性が指摘されています。制作年代は、『聖フランチェスコの聖母』とほぼ同時期の1515年頃、あるいはそれ以前の1513年から1514年頃と考えられています。

来歴

1780年代、コレッジョはヴィンチェンツォ・ファブリッツィ伯爵の統治下に置かれていました。1782年にサンタ・マリア・デッラ・ミゼリコルディア教会の信心会が弾圧され、教会の財産が売却された際、本作品はファブリッツィ伯爵が入手しました。その後、伯爵は数年で手放し、1789年にボローニャの美術収集家ジョバンニ・アントニオ・アルマーノによって、フェルディナンド・マレスカルキ伯爵に売却されました。

祭壇画は、1816年の伯爵の死後もマレスカルキ家に残されていましたが、イングランド貴族のアシュバートン男爵によって購入されました。その後、男爵家に相続されましたが、1889年に美術商に売却されました。メトロポリタン美術館は1908年に購入を検討し、1912年に最終的に購入しました。

ギャラリー

関連作品

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脚注

参考文献

黒江光彦監修『西洋絵画作品名辞典』三省堂（1994年）
ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監修、河出書房新社（1988年）

外部リンク

* メトロポリタン美術館の該当ページへのリンク'>メトロポリタン美術館公式サイト, コレッジョ（アントニオ・アッレグリ）『聖ペテロ、聖マルタ、マグダラのマリア、聖レオナルド』

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