キリストの洗礼 (ペルジーノ、チッタ・デッラ・ピエーヴェ大聖堂)

ピエトロ・ペルジーノ『キリストの洗礼』

盛期ルネサンスの巨匠、ピエトロ・ペルジーノが1510年頃に制作した油彩の祭壇画『キリストの洗礼』は、新約聖書に記されたイエス・キリストの洗礼の場面を描いています。この作品は、ペルジーノの晩年の作品であり、彼の故郷チッタ・デッラ・ピエーヴェの聖ジェルバシウスと聖プロタシウス大聖堂に設置されました。もともとは、ニコラ・ディ・ヴァレンテ・ポルケッティの遺言によって建設された洗礼者聖ヨハネに捧げられた礼拝堂の祭壇画として制作されました。

主題

新約聖書の四つの福音書には、洗礼者ヨハネがヨルダン川で人々に洗礼を授けていた様子が描かれています。ヨハネは、荒野でラクダの毛皮をまとい、イナゴと蜂蜜を食べて生活していました。多くの人々が彼のもとを訪れ洗礼を受けましたが、イエスが洗礼を受けに来たとき、ヨハネは「私こそあなたから洗礼を受けるべきだ」と言いました。しかし、イエスの願いによってヨハネはイエスに洗礼を施します。洗礼を受けたイエスの頭上には天が開け、鳩の姿をした聖霊が舞い降り、天からは「これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である」という声が聞こえたとされています。

作品の詳細

ペルジーノは、イエスが洗礼者ヨハネから洗礼を受ける瞬間を捉えています。画面中央を流れるヨルダン川の浅瀬に、物憂げな表情で立つヨハネが、右手で水をすくいイエスの頭に注いでいます。イエスは両手を胸の前で合わせ、頭を垂れて洗礼を受けています。川の水は二人の足首のあたりを流れ、澄み切っている様子が描かれています。頭上には、翼を広げた鳩の姿の聖霊が降臨しています。また、両岸には瞑想する二人の天使が描かれています。

背景には、なだらかな丘陵が広がるウンブリア地方の風景が描かれています。穏やかな風景は様式化され、澄み渡る青空の下、丘陵、細い木々、小川のある平原が地平線まで続いています。画面中央の二人の間には、都市の風景も描かれています。

構図はシンメトリックで調和がとれており、ヨハネとイエスの肌の色や優雅なポーズは、古典的理想を体現しています。ペルジーノは同じ主題で他に6点ほど作品を制作していますが、本作と構図がよく似ているのは、ウィーン美術史美術館所蔵の作品です。縦長の画面やポーズ、足首の高さで流れる川の水、降臨する聖霊と青空といった要素が共通しています。

ペルジーノは、洗礼者ヨハネとイエスを天使よりも大きく描くことで、彼らの重要性を強調し、天使を後方に配置することで、空間の奥行きを表現しています。遠近法も巧みに用いられており、前景は鮮明に、遠景は輪郭がぼかして描かれています。

この作品は、バロック様式の大理石の祭壇額に収められています。

保存状態と帰属

保存状態はペルジーノの同主題の作品の中で最も悪く、絵具の剥落やひび割れが見られます。そのため、長年ペルジーノの弟子による作品と考えられてきました。しかし、1962年の修復で下絵の繊細さが明らかになり、現在では一般的にペルジーノの自筆画と認められています。2010年には再び修復が行われました。

ペルジーノによる『キリストの洗礼』は、彼の芸術的才能を示す傑作であり、ルネサンス期の宗教画の重要な例の一つと言えるでしょう。彼の美しい風景描写や、古典的な人体表現は、後世の画家たちにも大きな影響を与えました。

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