キリストの荊冠 (カラヴァッジョ、ウィーン)

『キリストの荊冠』（伊: Incoronazione di spine）は、イタリアのバロック期を代表する画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョによって描かれた油彩作品です。制作時期は1602年頃、または1604年から1607年頃と推測されています。現在は、オーストリアのウィーンにある美術史美術館に所蔵されています。

この絵画は、1809年にオーストリア帝国の大使であったルートヴィヒ・フォン・レブツェルター男爵によってローマで購入されましたが、ウィーンに到着したのは1816年になってからです。

歴史的背景

カラヴァッジョの伝記作家であるジョヴァンニ・ベッローリによれば、『キリストの荊冠』は、カラヴァッジョのパトロンであったヴィンチェンツォ・ジュスティニアーニのために制作されたとされています。ジュスティニアーニのコレクションにこの作品があったことから、カラヴァッジョがローマを逃亡した1606年以前に制作されたと考えられてきました。しかし、美術史家のピーター・ロブは、カラヴァッジョがナポリに滞在していた1607年に制作されたという説を唱えています。

この絵画は、イエス・キリストが十字架に磔にされる直前に、茨の冠を頭に被せられ、嘲笑を受ける場面を描いています。キリストのねじれた身体は、古代彫刻であるベルヴェデーレのトルソの影響を受けていると指摘されています。また、この作品は、出入り口の上部に飾られることを想定して制作されたと考えられています。

様式と表現

カラヴァッジョのパトロンであったヴィンチェンツォ・ジュスティニアーニは、美術収集家であり、知識人でもありました。彼は芸術に関する論文を執筆し、芸術の到達度を12段階に分類しました。ジュスティニアーニは、カラヴァッジョとアンニーバレ・カラッチを、リアリズムと様式を最も高いレベルで融合させた芸術家と評価しています。この『キリストの荊冠』は、ジュスティニアーニがこれらの芸術家に求めた要素を体現していると言えるでしょう。

茨の棘をキリストの頭部に打ち付ける拷問者の残酷さは、非常に写実的に描かれています。一方、神の死を傍観する役人は、退屈そうに欄干にもたれかかっています。対照的に、キリストは苦痛に耐え忍びながらも、静かな姿で描かれています。これらの要素は、作品の古典的な構図の中で、水平線と対角線が交差するように配置されており、見る者に深い印象を与えます。

この絵画の中心的なテーマは、痛みと加虐的な行為です。美術史家のジョン・ガッシュは、拷問者たちが棒の先で「リズミカルに、そして加虐的に茨の棘を打ち付けている」と指摘しています。ピーター・ロブは、この作品について「いかにして痛みを与え、痛みを感じるか、そして時には痛みと喜びがどれほど近いか、金色の光が射す午後には、どれほど官能的な苦しみがあり得るのか」を表現していると述べています。

参考文献

Bauer, Linda Freeman; Colton, Steve (July 2000). “Tracing in some work by Caravaggio”. The Burlington Magazine: 434–436.
Christiansen, Keith (1986). “Caravaggio and "L'esempio davanti del naturale"”. The Art Bulletin 68: 421–445.
Gash, John (2003). Caravaggio. ISBN 1-904449-22-0
Keith, Larry (1998). “Three paintings by Caravaggio.”. National Gallery Technical Bulletin 19: 37–51.
Robb, Peter (1998). M. ISBN 0-312-27474-2

外部リンク

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