キリスト昇架

キリスト昇架（The Elevation of the Cross）

『キリスト昇架』は、フランドルの画家ピーテル・パウル・ルーベンスによって1610年から1611年にかけて描かれた三連祭壇画であり、アントウェルペンに位置する聖母大聖堂にて展示されています。この作品は、キリストの磔刑を主題としており、バロック美術の形成に大きな影響を与えたとされています。

作品の構成

『キリスト昇架』は、中央パネル、左翼パネル、右翼パネルの三つの部分から成り立っています。中央パネルは高さ460cm、幅340cmで、左右のパネルはそれぞれ高さ460cm、幅150cmのサイズを持ち、三面鏡のように開くことができる工夫が施されています。

中央パネル

このパネルでは、イエス・キリストがイバラの冠を頭に被せられ、手足を釘で十字架に固定される様子が描かれています。周囲には9人の死刑執行人が存在し、その一人が十字架を立てようと奮闘しています。ルーベンスは身体的な迫力を強調するため、死刑執行人たちを筋肉質に描写しています。彼らの動きや表情からは、緊迫感と生々しさが伝わってきます。

左翼パネル

左翼パネルでは、多くの女性や子どもたちが哀しみを抱え、キリストを見つめています。特に、最前面に描かれた女性は身体をのけ反らせ、幼い子どもがその身にしがみついています。彼女の哀れな表情は、観る者の心に深い感情を呼び起こします。後方には、聖母マリアと洗礼者ヨハネが、事の成り行きを静かに見守っている姿が描かれ、悲しみと希望が交錯する情景となっています。

右翼パネル

右翼パネルには、白いたてがみを持つ馬に乗ったローマ軍司令官が、キリストに磔刑の命令を下しているシーンが描かれています。背景には、キリストと一緒に磔刑にされる二人の泥棒が登場しており、一人はすでに兵士によって十字架にかけられようとしており、もう一人は衣服を剥がされている様子が見えます。このパネルには権力と無情が表現されています。

来歴

本作品は、もともとアントウェルペンの聖ヴァルブルガ教会の主祭壇画として製作されましたが、19世紀初頭にフランスの軍隊によって強奪され、パリに運ばれました。その後、1815年にアントウェルペンに戻り、1816年以降は聖母大聖堂に保管されています。当初は、神や天使の描写が上部にあり、ストーリーのシーンが下部に配置される形式でした。

影響と関連作品

『キリスト昇架』は古代彫刻『ラオコーン』の影響を受けており、キリストの姿勢や表現にはその痕跡が感じられます。また、イギリスの作家ウィーダによる児童文学『フランダースの犬』の中で、主人公の少年ネロがこの絵画を心から愛し、ついに目にする場面があります。彼は愛犬パトラッシュと共に、感動的な結末を迎えます。

この作品は、ルーベンスの芸術的才能とバロック美術の特長を味わうことができる貴重な存在です。

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