キリマンジャロ (コーヒー)

キリマンジャロ

キリマンジャロは、アフリカ大陸の東部に位置するタンザニア連合共和国で生産されるコーヒー豆の著名なブランドです。特に、国内北部にそびえるキリマンジャロ山の周辺地域で栽培されたコーヒーを指すことが一般的ですが、現在ではタンザニア産の水洗式アラビカ種コーヒー豆全般を指す広義の名称としても用いられています。

栽培と豆の特徴

キリマンジャロコーヒーの主な栽培地は、キリマンジャロ山の麓にあるモシやアルーシャといった町に近く、標高1,500メートルから2,500メートルにかけて広がるプランテーションです。栽培される品種は、香りが高く品質に優れることで知られるアラビカ種です。

収穫されたコーヒーチェリーから加工された生豆は、特徴的な緑灰色をしており、粒が大きい傾向があります。この豆から抽出されるコーヒーは、柑橘類を思わせるようなしっかりとした酸味と、フローラルな甘い香りを併せ持つことで評価されています。この独特な風味特性が、多くのコーヒー愛好家を魅了しています。

タンザニア経済における重要性

タンザニアにとって、農産物は主要な輸出品目であり、特にコーヒーは重要な外貨獲得源となっています。キリマンジャロコーヒーは、その品質と知名度から、国の経済を支える上で大きな役割を果たしています。ただし、多くの農園が大規模なプランテーション経営であるため、農園主とそこで働く人々の間に経済的な格差が生じるという社会的な課題も指摘されています。コーヒーの生産、販売、品質管理などは、タンザニアコーヒー協会（Coffee Authority of Tanzania, CAT）が一元的に管理しています。

世界的な知名度こそ高いものの、タンザニア全体のコーヒー生産量は世界の総生産量のわずか1パーセント程度にとどまります。

歴史的背景

タンザニアにおけるコーヒー栽培の歴史は、19世紀末に東アフリカを植民地としていたドイツが試みたことに始まります。当初、ドイツは東ウサンバア地域での栽培を計画し、レユニオン島から苗木を導入してプランテーション経営を試みましたが、多雨による栽培の困難さや労働者不足により成功しませんでした。

キリマンジャロ山域に初めてコーヒーノキを持ち込んだのはギリシャ人といわれています。東ウサンバアでの失敗後、ドイツやイギリスの入植者たちがこぞってキリマンジャロ周辺にプランテーションを開拓していきました。1914年頃には、約100のプランテーションで200万本ものコーヒーノキが栽培されるほどに発展しました。しかし、この頃はまだ「キリマンジャロ」というブランド名は確立されておらず、一旦イエメンに運ばれてから、モカの名前でヨーロッパへ輸出されていました。

日本市場における展開

世界的に見ると、キリマンジャロ地区は高品質な豆の産地であるものの、必ずしも突出した人気を誇る銘柄というわけではありません。しかし、日本では特別な人気があり、高い認知度を持っています。そのきっかけの一つとして、アーネスト・ヘミングウェイの原作に基づいた映画『キリマンジャロの雪』（日本公開1953年）が広く知られたことが挙げられています。この映画の影響もあり、日本はドイツに次ぐタンザニア産コーヒー豆の主要輸入国となりました。

現在、日本のコーヒー市場では、モカ、ブルーマウンテンと並んで人気のある銘柄の一つとなっています。かつては、ブルーマウンテンと同様に「英国王室御用達」といった販売促進用の謳い文句が使われることもありました。

1993年に施行された「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」により、「キリマンジャロ」というブランド名は、キリマンジャロ州やモシ州といったタンザニア北部産のコーヒー豆に加え、タンザニア全域で生産された水洗式のアラビカ種コーヒー豆にも使用できるようになりました。このため、北部の高品質な豆はストレートコーヒー用として、ムベヤ州やソンゲア州など南部で生産された水洗式アラビカ種は、主に缶コーヒーなどのブレンド用として多く輸入されています。ただし、タンザニア産のアラビカ種であっても、ブコバなどで生産される無洗方式の豆はキリマンジャロと称することはできません。

近年では、低農薬や無農薬栽培を可能にするための品種改良が進められており、風味の異なるロブスタ種との交配によるハイブリッド種も試験的に導入されていますが、これらの新たな品種に対するブランド呼称に関する規定はまだ明確ではありません。

日本の喫茶店やコーヒー愛好家の間では、「キリマン」と略して親しまれることもあります。

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